明誠グループニュースレター

情報フラッシュ [ 連載記事 ]
IFRS(国際財務報告基準)第8回 IAS第16号「有形固定資産」
[ トピック解説 ]
最近の証券取引所の規定改正について
災害損失の会計上と法人税法上の取り扱い
IFRSの動向のまとめ

情報フラッシュ

 
発表日時 表題
平成23年5月17日 日本公認会計士協会は、法規委員会研究報告の廃止・統合を行い、「財務情報の保証業務等の契約書の作成について」及び「監査及び四半期レビュー契約書の作成について」を改正しました。
平成23年5月18日 金融庁は、国際監査基準の明瞭性プロジェクトによる改正に対応して「中間監査基準及び四半期レビュー基準の改訂に関する意見書」(公開草案)が公表されていることを踏まえ、「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表しました。
平成23年5月19日 日本公認会計士協会は、企業会計基準「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」等の適用に対応させるため、「中間財務諸表と年度財務諸表との会計処理の首尾一貫性」を公表しました。
平成23年5月20日 日本公認会計士協会は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が行うクラリティ・プロジェクトの動向を踏まえた新起草方針に基づいて、改正版「『継続企業』(中間報告)」等計3本の公開草案を公表しました。
平成23年5月24日 日本公認会計士協会は、金融庁から公表された内閣府令や企業会計審議会から公表された意見書を踏まえ、内部統制監査についてさらに明確化を図るため、「『財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い』の改正について」(公開草案)を公表しました。
平成23年5月27日 日本公認会計士協会は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が行うクラリティ・プロジェクトの動向を踏まえた新起草方針に基づいて、「『受託業務に係る内部統制の保証報告書』(中間報告)」等計3本の公開草案を公表しました。

トピック解説

 

 

最近の証券取引所の規定改正について

1.はじめに

今回のニュースレターでは、東京証券取引所(以下「東証」という。)及び大阪証券取引所(以下「大証」という。)における最近の規定改正のうち、市場の規制強化に関する改正を公表日が新しい順に3つご紹介します。

2.マザーズの信頼性向上のための規定改正

平成23年2月28日、東証は「マザーズの信頼性向上及び活性化に向けた規程等の一部改正について」を公表しました。以下ではこの改正のうち、マザーズの信頼性向上のための規則改正について取り上げます。
[1] マザーズの新規上場申請者の上場要件に、『「新規上場申請のための有価証券報告書」に記載される財務諸表等について上場会社監査事務所の監査を受けていること』が追加されました(有価証券上場規程(以下「規程」という。)第212条第6号の2)。これにより、新規上場申請者の財務諸表の信頼性を確保することで、マザーズの市場全体の信頼性の向上を図っています。
[2] 上場後10年を経過したマザーズの上場会社については東証1部及び東証2部と同水準の上場廃止基準が適用されます(規程第603条)。これにより上場後10年未満の企業と10年以上の企業の上場廃止基準を区別し、上場後10年未満の企業のみを従来規則の適用対象とすることで、「成長性の高い新興企業の市場」というマザーズの市場コンセプトの明確化を図っています。
[3] [2]の改正に加え、上場後10年を経過したマザーズの上場会社は、マザーズへの上場を継続するか、東証2部に上場市場を変更するかを選択し、申請書を提出することが求められます(規程第316条第1項)。このとき、マザーズへの上場継続を選択した会社は原則として、申請書に企業価値又は株価の評価に係る専門的知識を有する者の作成した高い成長可能性に係る確認書を添付して提出しなければなりません(規程第316条第3項)。これにより成長性の高い企業と成長性の低い企業を区別し、成長性の高い企業だけを市場に残すことで、マザーズの市場コンセプトの明確化を図っています。

これらの規定は平成23年3月31日に施行されています。[1]については施行日以後に新規上場申請を行う者から適用されますが、施行日以前から監査又は四半期レビューを受けている公認会計士又は監査法人により、施行日以前に終了した事業年度及び施行日から1年以内に開始した事業年度の財務諸表について監査又は四半期レビューを受けている場合には適用されません。また、[2]、[3]については平成26年3月31日から適用することとされ、同日以前にマザーズへの上場後10年を経過した上場会社については、同日に上場後10年を経過したものとみなされます。

3.JASDAQにおける株価に関する上場廃止基準の改正

平成22年10月8日、大証は『「ヘラクレス、JASDAQ及びNEOの市場統合に伴う関連諸規則の一部改正等について」に基づく実務上の取扱い等について』を公表しました。以下ではこの改正のうち、JASDAQにおける株価に関する上場廃止基準の改正を取り上げます。

[1]上場銘柄がスタンダードに上場している銘柄で上場会社の発行する株券の価格が10円未満である場合,3か月以内に10円以上とならないときは、上場廃止となります(JASDAQにおける有価証券上場規程第47条第1項第4号)。この規定は、株価10円未満の株はマネーゲームや投機的対象になりやすいことを勘案して、市場の健全性の確保を図って設けられたものです。

ここでいう「株券の価格が10円未満である」場合とは、月末終値又は月間終値平均が10円未満である場合をいいます。また、「3ヶ月以内に10円以上とならないとき」とは、株券の価格が10円未満となった月の翌日から起算して3ヶ月目の日まで期間(猶予期間)の最終日において、月末終値及び月間終値平均の両方が10円以上とならない場合をいいます。

ここから日付を使って上場廃止までの流れをご紹介します。仮に5月31日現在のJASDAQ上場企業の株価の月末終値平均又は月間終値平均が10円未満となった場合、翌日の6月1日から3ヶ月間の猶予期間に入ります。その会社の月間終値平均が猶予期間の最終日(8月31日)から遡って5営業日以内において10円未満である場合に監理銘柄に指定されます。そして、8月31日現在の月末終値平均及び月間終値平均の両方が10円未満である場合に整理銘柄に指定され、上場廃止が決定します。そして、整理銘柄に指定された銘柄は原則として1ヶ月後の9月30日に上場廃止となります。ただし、猶予期間中に月末平均及び月間終値平均が10円以上となった場合には、猶予期間が解除されます。

この規定は平成23年4月1日以後の株価から適用されているため、平成23年4月の月末終値又は月間終値平均が10円未満となった場合に株価の上場廃止の猶予期間に入ることとなります。なお、平成23年5月2日現在で株価の猶予期間入り銘柄に指定されているのは6社となっています。

4.第三者割当増資に関する規定改正

平成21年7月30日、東証は『「2008年度上場制度整備の対応について」に基づく有価証券上場規制等の一部改正について』を公表しました。以下ではこの改正のうち、第三者割当増資に関する規定改正を取り上げます。

[1] 上場会社が第三者割当を行う場合、募集事項の決定前の発行済株式に係る議決権の総数に対する、当該第三者割当により割り当てられる募集株式等に係る議決権数の比率(以下「希釈化率」という。)が300%を超えるときは、株主及び投資者の利益を侵害するおそれが少ないと東証が認める場合を除き、上場廃止となります(施行規則第601条第13項第6号)。

[2] 第三者割当により支配株主が異動した場合、支配株主が異動した日が属する事業年度の末日の翌日から起算して3年を経過する日までの期間に支配株主との取引に関する健全性が著しく毀損されていると東証が認めるとき、上場廃止となります(規程第601条第1項第9号の2)。

[3] 上場会社が第三者割当を行う場合で、希釈化率が25%以上となるとき又は支配株主が異動するときは、原則として以下の(1)又は(2)の手続を経なければなりません。ただし、当該割当てに極めて高い緊急性が認められると東証が判断した場合は除かれます(規程第432条)。
(1) 経営陣から一定程度独立した者による第三者割当の必要性及び相当性に関する意見の入手
(2) 株主総会の決議などの株主の意思確認

[4] 上場会社が第三者割当を行う場合、以下の事項についての適時開示が求められます(規程第402条、施行規則第402条の2)。
(1) 割当先の払込に要する財産の存在について確認した内容
(2) 払込金額の算定根拠及びその具体的な内容(東証が必要と認める場合、払込金額が割当先に特に有利でないことに係る適法性に関する監査役又は監査委員会の意見等が含まれます。)
(3) 上記[3]の規程第432条のいずれかの手続を行う場合は、その内容(同条のただし書きの適用を受ける場合は、その理由)
(4) その他東証が投資判断上重要と認める事項

[5] 上場会社が第三者割当を行う場合は、割当先が反社会的勢力との関係がないことを示す確認書を作成し直ちに提出しなければなりません(施行規則第417条第1号g)。
これらの規定は平成21年8月24日から施行されており、いずれも投資家が安心して投資できる環境の整備を図って設けられたものです。

5.最後に

以上で示したように、市場における規制強化に関する改正の共通点は信頼性の向上と健全性の確保を目的としていることであるといえます。これらの規制により一定の成果が期待されるなか、特に2つ目にご紹介した「JASDAQにおける株価に関する上場廃止基準」に関しては、2011年4月末に適用後初めて「株価」の上場廃止の猶予期間入りした6社及び株価10円ラインを下回る可能性のある会社がいかにして上場を維持していくのかという点に注目が集まっています。

執筆者:岡 健太郎
 


 

災害損失の会計上と法人税法上の取り扱い

1.はじめに

2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生し、極めて甚大な被害が生じました。当該震災を受け、同年3月30日付で日本公認会計士協会から会長通牒「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」(以下、会長通牒という)が、また同年4月18日には国税局から「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」が公表されました。これから決算を迎える企業にとっては、会計処理や開示、税務に関して参考とすべきものと考えられます。そこで、災害損失における会計上と法人税法上の取り扱いについて本稿では見ていくこととします。

2.災害損失の範囲と会計処理

会長通牒は、災害損失の範囲について、以下の(1)から(7)を例示として示しています。平成7年3月27日に公表された「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」において示された例示と基本的な考え方は変わっていません。

(1) 固定資産(建物等の有形固定資産、ソフトウェア等の無形固定資産、投資不動産等)や棚卸資産(商品等)の滅失損失
(2) 災害により損壊した資産の点検費、撤去費用等
(3) 災害資産の原状回復に要する費用、価値の減少を防止するための費用等
(4) 災害による工場・店舗等の移転費用等
(5) 災害による操業・営業休止期間中の固定費
(6) 被災した代理店、特約店等の取引先に対する見舞金、復旧支援費用(債権の免除損を含む。)
(7) 被災した従業員、役員等に対する見舞金、ホテルの宿泊代等の復旧支援費用

これらの災害損失のうち決算日以前に発生したものについては、原則として災害の生じた期の損失としてそれぞれ当該損失を示す適当な名称を付した科目をもって、損益計算書の特別損失として計上することになると考えられます。(ただし、金額的重要性を考慮し、経常的な費用として会計処理することを否定するものではないと考えられています。)

(1)〜(7)については、それぞれ別個に適当な名称を付した科目をもって、損益計算書上表示すると会長通牒で整理されていますが、これらをまとめて1つの科目として計上することも考えられます。ただしこの場合には主要な項目について注記において説明することが考えられます。 また、決算日以後に発生が予定されている災害損失については、企業会計原則注解18の要件を満たすことを条件として引当金として計上することになります。この場合の引当金繰入額も損益計算書上の特別損失に計上することとなります。

3.災害発生時である平成23年3月11日より前に決算日を迎えた企業における震災の影響の取り扱い

会長通牒によると平成23年3月11日より前に決算日を迎えた企業は、今回の災害に係る影響を開示後発事象として取り扱うと考えられています。

したがって、債権、棚卸資産、固定資産及び繰延税金資産などの評価に当たっては、決算日時点の状況を基礎として見積もり、災害に係る影響(災害に起因する信用リスクの増大、将来キャッシュ・フローの悪化、将来の課税所得の見積りの下振れリスクなど)は、その影響が重要な場合に、開示後発事象として注記することが原則的な取扱いになると考えられます。

また、開示後発事象に関しては、監査・保証実務委員会報告第76 号「後発事象に関する監査上の取扱い」により、適切に対応する必要があります。なお、財務諸表作成時に入手可能な情報が限られる場合には、後発事象としての開示内容が概括的になることはやむを得ないものと考えられます。

4.決算スケジュールの延長

通常、有価証券報告書は事業年度経過後3カ月以内に提出しなくてはならないとされています。ただし東北地方太平洋沖地震が、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」第2条第1項に規定する特定非常災害に指定されたことから、3月よりも前に決算を迎えた法人については、本来の提出期限までに金融商品取引法に係る書提出書類の提出がなかった場合であっても、本年6月末までに提出がなされれば行政上及び刑事上の責任は問われないとされました。

また東日本大震災により、本来の提出期限までに有価証券報告書を提出できない3月決算企業などについても9月末までに提出すればよいこととする方向で、今後政令を整備すると金融庁は発表しています。

5.災害損失の法人税法上の取り扱い

[1]会計上の災害損失(災害損失引当金繰入を除く)の取り扱い 災害に関して法人や事業を営む個人が支出する費用などについては、国税庁HPの「災害に関する主な税務上の取扱いについて」において、どのように取り扱うか記載されています。

これによると

1)災害により滅失・損壊した資産等に係る費用又は損失のうち以下に該当するもの
2)復旧のために支出する費用のうち以下に該当するもの
3)従業員等に支給する災害見舞金品
4)災害見舞金に充てるために同業団体等へ拠出する分担金等
5)取引先に対する災害見舞金等
6)取引先に対する売掛金等の免除等
7)取引先に対する低利又は無利息による融資
8)自社製品等の被災者に対する提供
9)災害による損失金の繰越し

に該当するもののうちいくつかの要件を満たしたものが、損金として計上することが認められることとされています。

したがって、税法上も上記の(1)〜(7)の会計上の災害損失については基本的に損金として計上することが認められていると考えることができます。

また、被災資産以外の資産の耐震性を高めるために行われた工事費用や、被災資産の修繕にかえて新規に取得した資産の取得費用についてはどちらも損金とすることは認められておりません。

これは、前者は資本的支出に当たり後者は新たな資産の取得に該当するためです。


[2]会計上の災害損失引当金繰入の取り扱い

(1)概要

法人税法上認められている引当金は、貸倒引当金と返品調整引当金の2つのみであり(法人税法52条、53条)それ以外の引当金については原則として認められておりません。

このため本来、災害損失引当金の繰入額については法人税法上損金に算入することは認められないと考えられます。しかし、災害損失引当金については、平成23年4月18日に出された「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」により、当該被災事業年度等の確定申告初頭に”災害損失特別勘定の損金算入に関する明細書”を添付することで災害損失特別勘定として、損金算入することが認められることとなりました。

ただし、災害損失特別勘定については繰入限度額が設けられており、以下の1),2)のいずれか多い金額となります。

1)被災資産(その被害に基づき評価損を計上したものを除きます。)の被災事業年度等終了の日における価額がその帳簿価額に満たない場合のその差額に相当する金額
2)被災資産について、災害のあった日から1年を経過する日までに支出すると見込まれる次のイ)からロ)の費用の見積額。ただし、被災事業年度等終了の日の翌日以後に支出すると見込まれる金額に限ります。
イ)被災資産の取壊し又は除去のために要する費用
ロ)被災資産の原状回復のために要する費用(被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出する費用を含む。)
ハ)土砂その他の障害物の除去に要する費用その他これらに類する費用
ニ)被災資産の損壊又は価値の減少を防止するために要する費用
そのうえで保険金や補助金等を受け取っている場合はそれらの金額を控除した残額が繰入限度額となります。
このため会計上災害損失引当金繰入額とした全ての金額が損金として認められるとは限らない点に注意が必要です。
(2)損金算入が認められる理由
災害により被害を受けた資産を引き続き事業の用に供する場合において、損金算入されるものと算入時期は以下の表のようになります。

損金算入されるもの

損金算入時期

(a)資産価値減少による評価損

災害のあった日を含む事業年度

(b)原状回復のための修繕費用等

修繕等を行った事業年度


(a)については前述のとおり災害のあった日を含む事業年度に損金とすることができますが、(b)については原則として修繕等を行った事業年度において損金の額に算入しなくてはなりません。

今回の災害は地域的にも甚大であり、災害により被害を受けた資産に係る修繕費用等の発生は確実であるものの、早期に修繕等が完了しないといった理由から被災事業年度と、実際に修繕費用等を支出した事業年度とが乖離することが起こりえます。また被害を受けた資産に係る修繕費用等の金額を合理的に見積もることができ、被災事業年度に損金算入を認めても税務上問題のない事例も十分に想定されます。

このような理由から災害により被害を受けた棚卸資産及び固定資産の修繕等のために要する費用で、災害のあった日から1年以内に支出すると見込まれるものとして適正に見積もることができるものについては、災害損失特別勘定に繰り入れて、被災事業年度の損金の額に算入することができるとされているのです。


(3)申告調整による損金算入について

災害損失特別勘定は、災害のあった日から1年以内に支出すると見込まれる修繕費用等の見積額であり、いわゆる内部取引であることから、減価償却費の計上などと同様、法人の認識を明確にするという意味で被災事業年度等おける損金経理を要件としています。したがって、原則として、申告調整の方法により災害損失特別勘定への繰入額を損金算入することはできません。

ただし、3月決算法人で、今回の費用通達の公表時に、すでに決算手続きが終了しており、災害損失特別勘定の損金経理をできなかった等やむを得ない事情がある場合には、特例的に申告調整での損金算入を認めることとしています。

6.おわりに

以上、災害損失の会計上・法人税法上の取り扱いについてみてきました。
実務上は、発生した費用・損失が、税法上損金として認められる費用や損失に該当するかどうかについての判断が重要になってくると思われます。

 
参考資料

会長通牒「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」
「東日本大震災関係諸費用(災害損失特別勘定など)に関する法人税の取扱いに係る質疑応答事例」

「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」
 
執筆者:佐藤沙織、石川裕也
 


 

IFRSの動向のまとめ

1.IASBとFASBの共同プロジェクトの進捗

2011年4月21日、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務報告基準審議会(FASB)は、国際財務報告基準(IFRSs)と米国会計基準(USGAAP)を改善しコンバージェンスを行うための共同作業「Memorandum of Understanding」(MoU)について、進捗状況を報告しました。今回の報告で、IASB及びFASBは、共同作業を優先するとしていた3つのプロジェクト、及び1つの作業(保険契約)を2011年6月後まで延長し、それ以外のMoUの短期、及び長期プロジェクトは完了目前であるとしています。この共同作業の結果及び進捗状況は、米国の動向を見て、IFRSs強制適用の可否を今後判断することとしている日本に大きな影響を与えるものです。ここでは、共同プロジェクトの概要と経過について簡単に振り返り、今回の報告の意義について考えます。

2.共同プロジェクトの経緯

2002年5月、EUは、EU域内での2005年1月からのIFRSs採用を決定しました。これを受け、IASBとFASBは2002年9月に「ノーウォーク合意」と呼ばれる覚書を交わしました。これは、今後お互いが会計基準を制定するにあたって、IFRSsとUSGAAPとの統合に重きを置き、将来において双方の基準の重要な差異をなくすことについて合意したもので、今日まで続く共同プロジェクトの出発点でした。この合意の背景には、前年に発生したエンロン事件などの米国の会計不信があるとも言われています。

2006年2月、IASBとFASBはMoUを発表します。MoUとは覚書を意味し、ここではノーウォーク合意を再確認し、統合化の方針を明確にしたものです。この中で、IASBとFASBは具体的な検討テーマを段階に応じて3つに分類し、作業の道筋を設定することでコンバージェンスを加速させます。2008年4月にはMoUを更新し、2011年6月まで残る項目を公表。2009年にはMoUの経過報告と達成予定表を発表しました。

IASBとFASBは2010年より月1回の会議を開催、同年に3度の進捗報告を行っており、今年4月の報告は4回目となります。MoU及び進捗報告では、IFRSsとUSGAAPについて、緊急に改善する必要性が最も高いと考えられる重要なプロジェクトに優先順位がつけられました。2010年11月の報告では、優先プロジェクトを当初より絞った上で2011年6月を完了期日としていましたが、今回の報告では、優先プロジェクトのうちの3プロジェクトを2011年6月後の公表とし、先送りしました。ほかの優先プロジェクトのうち、完了していなかった公正価値測定、連結財務諸表、ジョイント・アレンジメント、その他の包括利益、退職後給付については、今後数週間のうちに公表するとしています。

3.残されたプロジェクト

今回の報告で2011年6月後に延期されたのは、収益認識、リース、金融商品の3つです。

[1]収益認識

収益認識において、両者の原則に大きな差異はありません。しかし、USGAAPには、非常に詳細な業種固有の要求事項があります。対してIASBの要求事項は大変概括的であるため、財務諸表の作成者はUSGAAPに依拠することとなっています。この差異を埋めるため、IASBとFASBは2008年12月に共同のディスカッション・ペーパーを公表し、意見を募りました。現在は、意見を受けて再審議をしている段階です。

[2]リース

リースについて、IASBとFASBは2010年8月に共同で公開草案を発表しました。この中では、借手の会計処理について「使用権アプローチ」を採用するとしています。この方法は、ファイナンス・リース、オペレーティング・リースの分類によるのではなく、すべてのリース取引について、リース資産・負債を貸借対照表に計上します。両審議会は、フィードバックを受けて再審議中ですが、公開草案から一部を変更する暫定決定がすでに行われています。

[3]金融商品

金融商品は、IASB、FASBがG20からの要請に個々対応した結果、重要な論点について共同提案を公表出来ず、それぞれの提案を公表することとなりました。両者は自らの提案及び相手の提案についてのコメントを募集しており、それを共同で検討して差異を調整する方針です。一部については共同での提案を行っており、最近では2011年1月に金融資産の減損会計に関する提案を行いました。

収益認識、リースのプロジェクトについては、審議会の決定により、再公開を行わずに新基準の文案作成に入る可能性もあり、完了の時期は流動的な状況です。

4.米国の姿勢の変化

上記のIASBとの共同プロジェクトを進めるにあたって、米国のスタンスは常に変化を続けてきました。当初はIFRSsとUSGAAPとのコンバージェンスを目標としてきた米国ですが、公開草案では同一であったのに確定基準で差異が生じた例があったり、ほかの作業でも難航しました。そのため、2008年に米国証券取引委員会(SEC)は、アメリカ上場企業のIFRSs採用へ向けたロードマップ案を公表し、IFRSs採用の方針を打ち出しました。

ところが、SECは2010年の進捗報告において記述を変え、IFRSを「インコーポレート」(組み入れる、取り込む)するという表現としています。2008年のIFRSs採用からはトーンダウンした表現であり、IFRSsの一部基準については採用しない、一部独自の解釈を加える等、IFRSsとUSGAAPに何らかの差異を残したまま、USGAAPの変更を行う可能性もあると考えられます。SECの今後の動向を注意深く見守る必要があるでしょう。

5.日本の姿勢

日本においては、2005年にASBJとIASBが共同プロジェクトの立ち上げについて合意し、現行の日本基準とIFRSsの差異について議論し、差異を縮小してきました。2007年には、コンバージェンスを加速することに合意した「東京合意」を経て2011年6月までに差異の解消を図ることとしてきました。その後、上記のSECによる2008年のロードマップ案を受け、国内でもIFRSsのアドプションが議題に上っています。SECが2014年12月15日以降終了する事業年度からIFRSsの強制移行をするためのタイム・テーブルを打ち出していたことを受け、金融庁の企業会計審議会は2009年6月に「日本版ロードマップ」を作成しました。内容はSECのロードマップを1年遅れにしたものでした。そこで、IFRSsの強制適用の判断は2012年をめどとし、2015年、又は2016年を適用開始としていました。

しかし、今回の報告で、主要なプロジェクトが先送りされることが決まったため、米国の判断時期が延期になることも考えられます。その場合には、日本の判断時期に影響を与える可能性が大きいといえます。今回の進捗報告を受けて、米国がどのような判断を下すか、注目する必要があります。

 
執筆者:本田
 


連載記事

 
 

IFRS(国際財務報告基準)第8回 IAS第16号「有形固定資産」

1.はじめに

今回は、IAS第16号「有形固定資産」(以下、IAS第16号という。)について紹介します。

2.目的

IAS第16号の目的は、財務諸表の利用者が企業の有形固定資産に対する投資及びその変動に関する情報を把握できるように、有形固定資産の会計処理を定めることです。主な論点としては、資産の認識、帳簿価額の算定、減価償却及び減損損失があります(減損損失はIAS第36号において規定されています)。

3.定義

有形固定資産とは、財貨の生産又は役務の提供、第三者への賃貸、内部管理目的で企業が保有し、1会計期間を超えて使用されると予測される有形の資産をいいます。我が国の会計基準においてはIAS第16号のような定義はなく、建物や工具器具備品等、有形固定資産に属する項目を列挙しています。

4.当初認識と測定

有形固定資産は、将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、取得原価を信頼性を持って測定できる場合に資産として計上されます。ここでいう有形固定資産の取得原価には、(1)値引・割戻控除後の購入価格(2)直接付随費用(3)資産除去債務の当初見積額が含まれます。(2)の直接付随費用には、人件費、整地費用、当初の搬入および取り扱い費用、据え付け費用、組み立て費用、機能評価のための試運転費用及び専門家報酬が該当します。また(3)の資産除去債務とは、資産の設置、使用等によって生じる、将来の資産の解体・除去・原状回復の義務のことをいいます。

交換により有形固定資産を取得した場合には、交換取引が経済的実質を欠いている、または、引渡資産と取得資産双方の公正価値が不明である場合を除き、引渡資産の公正価値を取得資産の取得原価とします。

当初認識と測定について、我が国とIFRSとの差異としては借入費用の原価算入があります。IFRSの場合には、意図した使用・販売が可能となるまでに相当の期間を要する資産の取得、建設及び製造に直接起因する借入費用は当該資産の取得原価に含めなければなりませんが、我が国では、建設に要する借入資本の利子で稼働前の期間に属するものは取得原価に算入する事が出来るとされています。また、資産除去債務については、IFRSとのコンバージェンスの一環として、平成22年4月1日以後開始する事業年度より「資産除去債務に関する会計基準」が適用され、構成要素の一つとなっています。

5.認識後の測定

企業は、以下の2つのモデルのうち、いずれかを会計方針として選択し、当該方針を有形固定資産の1つの種類全体に適用しなければなりません。

原価モデル:有形固定資産項目を、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額で計上
再評価モデル:公正価値を信頼性を持って測定できる有形固定資産項目について、再評価実施日における公正価値から、 その後の減価償却累計額及びその後の減損損失累計額を控除した評価額で計上

我が国の会計基準との大きな差異は、再評価モデルを採用できるということです。再評価モデルを採用し、その結果帳簿価額が増加した場合には、その増加額を再評価剰余金としてその他包括利益に計上します。ただし、過去において評価損を計上いている場合には、評価損の範囲内において利益を認識します。反対に、再評価の結果帳簿価額が減少した場合には、損失を認識します。ただし、過去において再評価剰余金を計上している場合には、再評価剰余金の範囲内において、当該再評価剰余金を取り崩します。

再評価モデルを採用した場合には、帳簿価額が公正価値と大きく異ならないような頻度で定期的に再評価を行わなければならず、また、有形固定資産の1つの種類全体に再評価モデルを適用しなければなりません。例えば、工具器具備品に再評価モデルを適用した場合には、その一つ一つの公正価値を定期的に測定する必要があります。そのため、経理部のみならず関連部署の業務も煩雑になることが考えられます。

既にIFRSを採用しているEUにおいて再評価モデルを採用している企業は少なく、我が国でIFRSが導入された場合においても、再評価モデルを選択する企業は少ないと考えられます。

6.減価償却

減価償却とは、資産の償却可能額を規則的にその耐用年数にわたって配分することを言います。減価償却の方法としては定額法、定率法及び生産高比例法がありますが、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されるパターンを反映する方法を選択します。そして、減価償却の方法や資産の残存価格、耐用年数は少なくとも毎事業年度末に見直す必要があり、予測が以前の見積りと異なっていた場合には会計上の見積りの変更として会計処理をしなければなりません。

我が国においては、減価償却方法について差異はありませんが、減価償却の各構成要素の見直しの頻度について定めはありません。また、我が国の現行実務では、減価償却の方法は、事実上、法人税法に従っております。そのため、IAS第16号に従った場合には、法人税法での減価償却費と差異が生じる可能性があります。会社計上額が法人税法計上額に満たない場合は、当該差額について、税務申告書において追加計上が出来ないため、課税所得が増え、会社の税負担が増加することになります。このように、IFRSの採用が税法に影響を与える事項については、IFRS導入諸国において、税負担の緩和を目的とした対策が採られています。例えば韓国において、2013年までの固定資産の取得分については、従来の減価償却方法や耐用年数を限度に申告調整を認め、2014年以降の取得分については、法人税法上基準耐用年数を限度に申告調整を認める改正が行われています。

我が国においても韓国のように、IFRS導入による税法の改正が今後起こりうる可能性があることについて留意しておく必要があるでしょう。

7.認識の中止

有形固定資産は、その処分時またはその使用又は処分から将来における経済的便益が期待されないときに、その帳簿価額の認識を中止しなければなりません。認識の中止により生じた損益(処分による収入が存在する場合には、その正味収入から当該資産の帳簿価額を控除した額)は、認識中止時に純損益に含めなければなりません。

なお、再評価モデルを採用した場合には、認識の中止時に計上されていた再評価剰余金は純損益を通さず、直接利益剰余金に振り替えられます。

 

執筆者:関和輝
 

編集後記
 
 

 今月の初めにHLBIのアジア地域会議に参加して来ました。参加した各国の代表の方々から大震災のお見舞いの言葉をたくさん頂きました。日本人は素晴らしい能力を持っているので、きっと速やかに回復するだろうと口々に言われ、とても勇気づけられました。

 ところで、今回は通訳なしで参加したのですが、私の貧弱な英語力では正直しんどかったです。日本では英語が堪能な会計士が少ないですが、アジア諸国では「国際事務所に所属している会計士である以上は、英語が出来て当たり前」との事でした。日本の会計士が恥をかかないために、私も一層の努力が必要なようです。
 
執筆者:武田剛
 


       
 
 

  明誠ニュースレター vol.09
2011年6月16日発行
発行責任者:武田剛
編集スタッフ:梅原剛、清水真太郎、大森麻利子、村田博明
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