明誠グループニュースレター

情報フラッシュ [ 連載記事 ]
IFRS(国際財務報告基準)第9回 IAS第17号「リース」
国際監査基準のクラリティ版について解説(第1回)
[ トピック解説 ]
BCP (事業継続計画)
内部統制報告制度と事例集について

情報フラッシュ

 
発表日時 表題
平成23年6月1日 金融庁より、「特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」が公表されました。
平成23年6月10日 企業会計基準委員会(ASBJ)と国際会計基準審議会(IASB)が、東京合意における達成状況とより緊密な協力のための計画を発表しました。(第13回会合)
平成23年6月16日 IASBとFASBは、その他の包括利益の表示要求を一致させたことを公表しました。
平成23年6月16日 IASBは、退職後給付の会計処理の改善を導入したことを公表しました。
平成23年6月17日 金融庁より、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等が公表されました。
平成23年6月23日 日本証券業協会より、「新興市場等の信頼性回復・活性化に向けた工程表」が公表されました。
平成23年6月29日 日本公認会計士協会より、IT委員会実務指針「情報技術(IT)を利用した情報システムに関する重要な虚偽表示のリスクの識別と評価及び評価したリスクに対応する監査人の手続について」(公開草案)が公表されました。

トピック解説

 

 

BCP (事業継続計画)

1.はじめに

[1]企業を取り巻くリスク

企業の事業継続を脅かす様々なリスクが存在しています。特に、本年3月に発生した東日本大震災は、東北地方を中心に甚大な被害をもたらすとともに、製品や資材の供給途絶、電力不足による計画停電など、我が国の、そして首都東京の経済にも大きな影響を及ぼしています。日本経済を支える我が国の企業が事業を継続し、また早期に復旧するための力を蓄えておくことが非常に重要と言われています。

[2]企業の態度

しかしながら、大多数の企業はこれらに必要な対応策を震災前には特に策定していませんでした。また震災後も、対応策の必要性には漠然と気付きながらも、具体的に何から始めればよいのか、今一つ分からないという企業が依然として多いようです。

[3]BCPというキーワード

一方で、以前からBCPというキーワードが一部で見受けられていましたが、震災を機に世間がこのキーワードに注目するようになりました。具体的には、震災に備えてBCPが必要である、あるいは、BCMを取り入れた経営を行う必要がある、といった表現を目にするようになっています。

[4]本稿の趣旨

そこでここでは、話題になっているこのBCPを検討していくことにより、今後の企業経営にとってBCPに関連してどういうことを行うことが必要なのか、また、今後の企業経営にとってBCPがどのように有用なのか、考えていくこととします。その検討の過程で、実際に策定する場合を想定し、コストをなるべくかけずに策定する方法をご紹介します。

2.概要

[1]定義

BCPはBusiness Continuity Planの略で、一般には事業継続計画と訳されています。具体的にはBCPは、緊急事態を想定し、事前の備えとして、被害を最小限にとどめ、事業の継続あるいは早期復旧のために必要な対応策をまとめたものです。

[2]策定する根拠または契機

BCPは企業がその必要に応じて策定するものです。場合によっては法規で義務付けられていたり、行政機関の指示があったりすることもありますが、基本的には企業が自主的に策定するものです。

[3]責任者

BCPの策定に最終的に責任を負うのは経営判断を行う経営者です。また一次的には、事業詳細を把握している事業部長などが責任者であることが一般的です。

[4]BCM

BCPに関連する言葉としてBCMという概念もあります。BCMはBusiness Continuity Managementの略で、事業継続マネジメント(管理)のことです。BCPは計画そのもので、一方BCMは、BCPを策定し、運用し、訓練し、継続的に改善する取り組みあるいは管理業務を指す、BCPより広い概念です。ただし、BCMの中心は策定されるBCPですので、一般的にはBCPが検討対象となっています。

[5]発展の歴史
(1)成り立ち

BCPの成り立ちは正確には明らかではありませんが、一般には欧米で1980年代の後半に唱えられ始めたとされています。ITシステムにおける災害対策の延長として、BCPが普及してきました。

(2)一般化

コンピュータ誤作動の恐れがあるとされた2000年問題をピークとしていったん衰退しましたが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロによって、BCPが世界的に注目を集めました。金融機関が被災直後にBCPを発動して、数時間後に主要業務を再開させたと言われています。

その後も2005年にイギリスのロンドンで発生した同時爆破テロや、同年ロンドン近郊で起きた石油貯蔵施設の爆発事故などで、BCPが発動された事例が報告されています。

3.実際

[1]日本の現状

近年大地震や新型インフルエンザなどのリスクが高まる中、リスクが発生した場合でも速やかに事業を継続するため、BCPの策定は非常に重要かつ緊急な課題と言われています。

2009年の調査では、取引先を含む外部からBCP策定の要請を受けた企業は26%にとどまっていますが、今後は大幅に要請が増えると予想されており、早めの対策が望まれることは間違いありません。

しかしながら、特に中小企業においては、BCP策定に必要な間接部門の人材や資金の確保が困難、また策定するノウハウも不足しているなどの理由から、普及が進んでいないのが実情です。

[2]策定のメリット

BCPを策定することにより、以下のような様々なメリットを享受することができます。

(1)備え − 基本的効果

BCPは、大地震、世界規模での新型インフルエンザの大流行等、企業を様々なリスクが取り巻く中、万が一の事態から企業を守る備えとして非常に有効です。

(2)その他の副次的効果

BCPの策定の過程は、企業の活動内容を見直すことになり、経営改善、業務の効率化など、経営力の強化に繋がるメリットもあり、意識的に見直す場合には副次的効果が得られます。

また取引先、金融機関からBCPを策定してほしいという依頼があることがあり、適切なBCPを策定する場合にはこれらの期待に応えることができます。このような依頼が現時点で存在していなかったとしても、BCPを備える場合には対外的な信用が高まり、新たな受注に結び付く可能性もあります。

[3]スケジュール

BCPを策定するスケジュールとしてはいろいろな考え方がありますが、その1つは次のような順序です。

BCPに関する情報の収集 策定の意思決定
セミナー等への参加 作業ステップの決定
コンサルタント利用の要否とその選定 実作業
レビュー及びフォロー      

実作業は一般的に3か月程度と考えられます。

[4]リソース

BCPを策定するにあたって、通常、プロジェクト体制を採用することになります。

このプロジェクトに必要な人材も企業によって異なりますが、平均的なプロジェクトについて見てみましょう。

社長自身のフル参加が一般的であり、まさにトップ主導の体制です。

参加人数は平均6人です。

内訳は経営者が32%、管理者が43%です。

職務別にみると55%が製造・サービスや営業の現業部門となっており、まさにトップと現場主体のBCP策定となっています。

資金面では、経営改善や業務の効率化を推し進める際に行われるITを中心とした投資に資金が必要となるケースがあります。

策定ノウハウについては、一般的な企業には存在しないと想定されるので、自社で習得する余力がなければ、外部の専門家の利用が現実的な解決策であるケースがあります。

[5]作業ステップ
(1)基本方針の策定

目的、重要事項、復旧目標、被災シナリオなどといった基本的な枠組みです。

(2)重要業務の特定

基本方針の枠組みに基づき、より詳細な復旧要件の特定(=業務影響度分析)を行います。

(3)事業継続対策の決定

これまでのステップで得られた分析結果を元に必要な対策を決定します。具体的な作業内訳には、事業継続対策の検討・決定と、緊急事態に対する初動対応計画の検討・決定の2つがあります。

(4)BCP文書の作成

BCP文書(最終版)の作成と演習計画の作成という2つの作業を行います。

(5)演習と改善

演習の実施と結果の報告及び年間運用計画の作成の2つの作業が発生します。

[6]行政機関の支援 − 無料サービス
(1)概要

地方自治体を中心に、従来から企業によるBCPの策定を支援する事業が行われています。

(2)内容

原則としてすべて無料で、支援事業の説明会の開催とともに、セミナーの開催、コンサルタントの派遣、事例の紹介などが行われています。

(3)対象

昨今の東日本大震災を受け、防災力強化を図るため、支援対象を拡大して実施されています。

例えば東京都の支援事業の対象は、基本的には中小企業基本法に準拠した中小企業となっています。

非上場企業はもちろんのこと、上場企業でも東証1部上場企業など一部の大企業以外はほとんど対象となることになります。

[7]行政機関の支援 − 指針等

BCPを策定するための行政機関の間接的な支援として、各種機関が指針等を公表し、企業の利用のために無料で供しています。

(1)事業継続計画策定ガイドライン

経済産業省が2005年6月に公表したものです。IT事故を想定しており、BCPの策定手順や検討項目等を解説しています。

(2)中小企業BCP策定運用指針

中小企業庁が2006年2月に公表したものです。中小企業の特性や実状に基づいたBCPの策定及び継続的な運用の具体的方法が、わかりやすく説明されており、この指針に沿って作業すれば、BCPを策定することができるようになっています。

(3)中小企業BCPステップアップ・ガイド

行政機関ではありませんが、NPO法人事業継続推進機構が公表(最新版は2008年11月)したものです。中小企業を想定し、災害・事故等に備えた事業継続計画(BCP)の作成・運用に向けた取組みを、わかりやすく3部に分けてステップを示しています。

4.結びに代えて

企業がBCPを策定するという意思決定をした後に最大のネックとなるのは、策定ノウハウの不足である可能性が最も高いです。

日本経済を支える我が国企業が、事業継続に取り組むことが、強い会社を作ることに繋がります。1社でも多くの企業がBCP策定に取り組み、日本全体の事業継続力向上とともに業績向上が図られることを心より願っています。

 
執筆者:梅原剛
 


 

内部統制報告制度と事例集について

1.はじめに

本稿では、平成23年3月30日に企業会計審議会より公表された「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」(以下「意見書」という。)と平成23年3月31日に金融庁から公表された「内部統制報告制度に関する事例集」(以下「事例集」という。)について解説します。

2.改訂の背景

意見書によれば、その改訂の背景として、以下の2点を挙げています。

(1) 内部統制報告制度導入後2年が経過し、実際に制度を実施した上場企業等からは、その経験を踏まえ、内部統制の基準・実施基準等の更なる簡素化・明確化等を求める内部統制報告制度に関する要望・意見が金融庁等に寄せられたこと。

(2) 特に中堅・中小上場企業からは、資源の制約等がある中で内部統制報告制度への対応を行っているため、内部統制の評価手続に関する基準等について、中堅・中小上場企業の実態に即した簡素化・明確化等を求める要望等が多く寄せられたこと。

内部統制制度導入時より、適時にレビューを行い、その結果を踏まえて、必要に応じ、内部統制の評価・監査の基準・実施基準の見直しや更なる明確化等を検討することとされていたため、上記の状況を踏まえ、内部統制の基準・実施基準の更なる簡素化・明確化等の検討を行い、内部統制報告制度の運用の見直しを図ることとなりました。

3.主な改訂点等

意見書による主な改訂点は以下の通りです。

(1)企業の創意工夫を活かした監査人の対応の確保

本改訂では、「監査人に企業独自の内部統制の手法を尊重してもらえない」といった意見も踏まえ、監査人に対し、経営者による会社の状況等を考慮した内部統制の評価の方法等を適切に理解・尊重した上で内部統制監査を実施することや、各監査人の定めている監査の手続や手法と異なることをもって、経営者に対し、画一的にその手法等を強制することのないよう留意することを要請しています。

また、事業規模が小規模で、比較的簡素な組織構造を有している組織等の場合には、監査人に対して効率的な内部統制対応に係る相談等を行うことも多く、こうした際に、独立性の観点から、監査人の立場として経営者からの相談等に応じないことがないよう、監査人として適切な指摘を行うなどいわゆる指導的機能の適切な発揮に留意することとされています。

さらに、内部統制監査と財務諸表監査の一層の一体的実施を通じた効率化を図る観点から、監査人は内部統制監査と財務諸表監査が一体となって効果的かつ効率的に実施する必要があるとされています。

(2)内部統制の効率的な運用手法を確立するための見直し

内部統制の効率的な運用手法を確立するために、以下のようなことが見直されました。

@企業において可能となる簡素化・明確化
イ.全社的な内部統制の評価範囲の明確化
ロ.全社的な内部統制の評価方法の簡素化
ハ.業務プロセスに係る内部統制の整備及び運用状況の評価範囲の更なる絞り込み
ニ.業務プロセスに係る内部統制の評価手続の簡素化・明確化
ホ.サンプリングの合理化・簡素化
A「重要な欠陥」(改訂後は「開示すべき重要な不備」。)判断基準等の明確化
イ.「重要な欠陥」の判断基準の明確化
ロ.M&A等により、新たにグループ会社に加わった会社等に対する内部統制の評価・監査の方法等の明確化
B中堅・中小上場企業に対する簡素化・明確化
イ.業務プロセスの評価手続の合理化
ロ.代替手続の容認
ハ.評価手続等に係る記録及び保存の簡素化・明確化
(3)「重要な欠陥」の用語の見直し

「重要な欠陥」とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備をいうとされており、内部統制に「重要な欠陥」が存在する場合には、それが財務報告に重要な影響を及ぼす可能性があるということであり、直ちに当該企業の有価証券報告書に記載された財務報告が適正でないことを意味するわけではありません。この「重要な欠陥」の用語については、一部で、企業自体に「欠陥」があるとの誤解を招くおそれがあるとの指摘があり、「開示すべき重要な不備」と見直すこととなりました。ただし、単に用語を置き換えたものであり、用語の定義や「開示すべき重要な不備」の判断基準に変化はありません。

(4) 効率的な内部統制報告実務に向けての事例の作成

事業規模が小規模で、比較的簡素な組織構造を有している組織等の場合には、当該組織等の内部統制の構築や評価における経営資源配分上の制約から、必ずしも効率的な内部統制報告実務を行えない場合が想定されます。そういった組織の実務の参考に供するために、制度導入後2年間にわたり、基準・実施基準に基づいて内部統制報告制度が実施されてきた中で、事業規模が小規模で、比較的簡素な構造を有している組織等が、資源の制約等がある中で、様々な工夫を行ったことにより、内部統制の有効性を保ちつつも、効率的に内部統制の評価等を行っている事例を集め、事例集が作成されました。

以下では意見書の改訂点に絡んだ事例について解説します。

4.僅少な業務プロセスの評価範囲(事例3-4)

(事例3-4)では「コアとなる事業のほかに少量多数の事業を営んでいるため、個々の事業には重要性の低い業務プロセスが多数存在する。このため、重要性に応じた効果的・効率的評価を実施」したとあります。「実施基準II.2.(2)A評価対象とする業務プロセスの識別(注2)」では、「重要な事業拠点における企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスの評価範囲については、経営者が重要な虚偽記載の発生するリスクを勘案して、企業ごとに適切に判断すべきものであり、…(中略)…、売上に至る業務プロセスの金額を合算しても連結売上高の概ね5%程度以下となる業務プロセスを、重要な事業又は業務との関連性が低く、財務報告に対する影響の重要性も僅少なものとして評価の対象からはずすといった取扱いはありうるものと考えられる。なお、この「概ね5%程度」については機械的に適用すべきでないことに留意する。」と記載されています。評価対象とする業務プロセスの識別については、5%と数値が例示されているものの、企業の実情に応じて適切に判断することが求められています。

5.規模の差異を考慮した直接的なモニタリングの実施(事例3-10)

(事例3-10)では「経営者が直接的なモニタリングを実施することにより、評価手続を効率化」したとあります。「実施基準III.4.(2)@ロ.a.運用状況の検討の内容及び実施方法」においては、「事業規模が小規模で、比較的簡素な構造を有している組織等においては、経営者が直接行った日常的モニタリングの結果や監査役が直接行った内部統制の検証結果を内部統制の実施状況の検証として利用するなど、効率的な運用状況の検討が可能な場合があることに留意する。」と記載されています。事業規模が小規模で比較的簡素な構造を有している組織等においては、経営者や監査役が行ったモニタリングの結果などを内部統制監査において利用することが可能であるとされています。

6. ITに係る業務処理統制の評価(事例4-3)

(事例4-3)では「ITに係る業務処理統制の運用状況の評価において、監査人と協議のうえ、過年度の評価結果を活用」したとあります。「実施基準II.3.(3)Dニ.a.ITに係る全般統制の評価(注)」及び「同c.過年度の評価結果を利用できる場合(注)」には「IT全般統制の項目のうち、前年度の評価結果が有効であり、かつ、前年度の整備状況と重要な変更がない項目については、その旨を記録することで、前年度の運用状況の評価結果を継続して利用することができる。」、「ITに係る業務処理統制の評価のうち、ITを利用して自動化された内部統制については、上記に従い、過年度の評価結果を継続して利用できる場合、一定の複数会計期間に一度の頻度で運用状況のテストを実施する方法も含まれる。」とされています。ITに係る内部統制に限らず、全社的な内部統制の前年度の評価結果が有効である場合には、財務報告の信頼性に特に重要な影響を及ぼすものを除き、整備状況に重要な変更がないときには、運用状況についても前年度の評価結果を継続利用することが可能であるとされています。

7. 決算・財務報告プロセスに係る内部統制の記録(事例6-1)

(事例6-1)では「内部監査人等と管理部門が適切に連携を保つことにより、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の記録を削減」したとあります。「実施基準II.3.(7)@内部統制の記録」においては「特に、事業規模が小規模で、比較的簡素な構造を有している組織等においては、様々な記録の形式・方法をとりうる。」とされています。評価手続等に係る記録及び保存については、例えば、当該会社の経営者からの社内への通達、後任者への伝達文書、受注の際の作成文書等を適宜利用し、必要に応じてそれに補足を行っていくことで足りるとされています。

8. 最後に

内部統制報告制度は、上場企業の財務報告に係る内部統制を強化し、もってディスクロージャーの信頼性を確保することを目的としています。内部統制の整備・運用については個々の企業のおかれた環境等を勘案して経営者が決定すべきであり、事例集はその決定に資するように作成されています。事例集を活用することにより、内部統制報告制度の目的が効果的に達成されることが期待されます。

なお、改訂基準及び改訂実施基準は、平成23年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用されます。

 

【参考文献】
「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」 企業会計審議会 平成23年3月30日

「内部統制報告制度に関する事例集」 金融庁平成 平成23年3月31日
 
執筆者:佐藤
 


連載記事

 
 

IFRS(国際財務報告基準)第9回 IAS第17号「リース」

1.はじめに

今回は、IAS第17号「リース」(以下、IAS第17号という。)、特にリース資産の借手の会計処理について紹介します。

2.定義及び分類

IAS第17号によると、リースとは、貸手が1度または数回の支払いの対価として一定期間にわたって借手に特定の資産の使用権を移転する契約をいいます。そして、リースはファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類されます。ファイナンス・リースとは、所有権の移転の有無にかかわらず、資産の所有に伴うリスクと経済価値の実質的にすべてが借手に移転するものをいい、その他はオペレーティング・リースに分類されます。

リース取引がどちらのリースに分類されるかは、契約の形式よりも取引の実質により判断され、ファイナンス・リースに分類される状況の例として、以下のようなものが挙げられています。


[1]リース期間の終了までに資産の所有権が借手に移転する。
[2]借手に選択権の行使日の公正価値より十分に低い価格での当該資産の購入選択権が与えられており、当該権利の行使が合理的に確実である。
[3]リース期間が当該資産の経済的耐用年数の大部分を占める。
[4]リース開始日において最低リース料総額の現在価値が、少なくとも当該資産の公正価値のほぼすべてを占める。
[5]リース資産が特殊な性質をもっており、大きな改修を行わなければ借手以外が使用できない。

一方、我が国においては、ファイナンス・リースが所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リースに分類されます。まず、ファイナンス・リースに分類されるかにあたっては、以下の基準のいずれかを満たす必要があり、IAS第17号には規定されていない数値基準が存在します。


[1]解約不能リース期間中のリース料総額の現在価値が、見積現金購入価額のおおむね90%以上であること。
[2]解約不能リース期間が、リース物件の経済的耐用年数のおおむね75%以上であること。

そして、上記したIAS第17号におけるファイナンス・リースに分類される状況の例のうち、[1][2][5]に相当する条件のいずれかに該当する場合には、所有権移転ファイナンス・リースに該当し、それ以外が所有権移転外ファイナンス・リースとなります。

3.借手のファイナンス・リースの会計処理

[1]当初認識

ファイナンス・リースの借手は、リース開始日に算定したリース物件の公正価値又はリース開始日に算定した最低リース料総額の現在価値のいずれか低い金額で、リース資産及びリース負債を財政状態計算書に認識しなければなりません。現在価値算定に用いられる割引率については、実務上可能であればリースの計算利子率とし、実務上不可能な場合には、借手の追加借入利子率を用います。

我が国の会計基準では、所有権移転の有無によって以下のように計上金額が異なります。なお、割引率については所有権移転の有無にかかわらず、IAS第17号と同様です。


(1) 所有権移転ファイナンス・リース
1)貸手の購入価額等が明らかな場合:当該購入価額
2)明らかでない場合:リース料総額の割引現在価値と見積現金購入価額とのいずれか低い額

(2) 所有権移転外ファイナンス・リース
1)貸手の購入価額等が明らかな場合:リース料総額の割引現在価値と貸手の購入価額とのいずれか低い額
2)明らかでない場合:リース料総額の割引現在価値と見積現金購入価額のいずれか低い額

また、個々のリース資産に重要性が乏しい場合には、賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理も認められています。

[2]認識後の測定

(1)リース資産の減価償却

リース資産については、自己資産と同一の方法により減価償却を行います。償却の期間はリース期間の終了時までに所有権を取得することが合理的に認められない場合には、リース期間または耐用年数のいずれか短い期間とします。また、リース資産はIAS第36号「資産の減損」に基づき、減損会計の対象となります。

我が国の会計基準では、当初認識と同様に、所有権移転の有無によって以下のように償却方法が異なります。

1)所有権移転ファイナンス・リース

自己の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法により減価償却を行う。この場合、経済的使用可能予測期間を耐用年数とする。

2)所有権移転外ファイナンス・リース

リース期間を耐用年数、残存価額をゼロとして減価償却を行う。

(2)リース負債の処理

最低リース料総額を金融費用と負債残高の返済部分に区分し、金融費用については、各期間の負債残高に対し一定の 期間利子率となるように、リース期間にわたって配分しなければなりません。リース料のうち、時間の経過以外の要因で変 動する将来の金額(売上歩合、物価指数等)に基づく変動リース料については、発生時の費用とします。

我が国との大きな差異はありませんが、変動リース料については、規定において言及されていません。

4.借手のオペレーティング・リースの会計処理

オペレーティング・リースによるリース料については、他の規則的な方法により借手の便益のパターンが適切に表される場合を除き、リース期間にわたり定額法によって費用を認識します。一定期間のフリーレントや賃料の割引があった場合でも、リース期間にわたって定額になるように再計算を行わなければなりません。

我が国の会計基準では、一定期間のフリーレントや賃料の割引があった場合の処理について明文化されておりません。

5.おわりに

リースについては、IASBが現行のIAS第17号を大幅に改訂する公開草案を2010年8月に公表しています。主な改正点としては、(3)ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分の廃止(2)借手の会計処理として使用権モデルの提案(3)貸手の会計処理として履行アプローチと認識中止アプローチを使い分ける複合モデルの提案があります。我が国においても、2010年12月に公開草案に対するコメント及び「リース会計に関する論点の整理」を公表しており、今後の動向について注目する必要があるでしょう。

 

執筆者:関和輝
 


 

国際監査基準のクラリティ版について解説(第1回)

1.国際監査基準のクラリティ版の概要

現在、国際会計基準(IFRS)が注目されており、国際的に同じ会計基準を使用しようという傾向があります。日本でも、国際会計基準(IFRS)の正式採用は延期されたものの、日本の会計基準と国際会計基準(IFRS)とのコンバージェンス(収れん、統一化)は引き続き進んでいます。日本の会計基準を国際会計基準に近づけるために、近年は新しい会計基準が次々と新設され、従来の会計基準も続々と改正されています。

そんな中、財務諸表の監査等のためのルールである「監査基準」についても、世界的にコンバージェンスが進んでいます。

国際会計士連盟(IFAC)は、従来の監査基準の全面的な見直しを行い、2009年3月に新しい国際監査基準(ISA)を公表しました。この国際監査基準の改訂は、各基準における監査上の要求事項と、その解釈にあたる「適用指針」とを明確に区別し、基準の内容を明確化すること等を目的として行われたものです。

この一連の改訂作業は「クラリティ・プロジェクト」と呼ばれ、2009年3月にはプロジェクトが完了し、クラリティ版の国際監査基準37本(国際品質管理基準(ISQC)第1号を含む。)が公表されました。

2.日本の国際監査基準への対応

従来から日本は、国際監査基準をそのまま採用するのではなく、日本公認会計士協会が日本独自の監査基準を「監査基準委員会報告書」という形で作成・公表してきました。

実際は、日本の監査基準は国際監査基準をベースに作成されているものも多く、特に監査基準委員会報告書第27号以降は既に国際監査基準とほぼ同じ内容になっています。

しかし、日本公認会計士協会は、今回のクラリティ・プロジェクトの完了を受けて、従来の日本の監査基準をクラリティ版の国際監査基準に適合させるべく、監査基準の全面的な改訂作業を行っています。改訂後の監査基準は、現在は一部が最終版、残りが公開草案・中間報告という形で公表が行われており、平成23年7月11日時点では、国際監査基準37本に対応する形で、改訂後の監査基準が34本公表されています。

これらの新しい日本の監査基準は、一部(監査基準委員会報告書第59号から第64号までの6本)が2012年3月決算に係る監査(および2012年9月中間決算に係る中間監査)から適用されます。、また、残りの監査基準は、大部分が2013年3月決算に係る監査(および2013年9月中間決算に係る中間監査)から適用される予定になっています。

3.監査基準委員会報告の一覧

国際監査基準に対応して公表された監査基準委員会報告書は以下の通りになっています(平成23年7月11日現在)。既にほとんどの国際監査基準に対応して監査基準委員会報告書が公表されています。上述のとおり、監査基準委員会報告書第59号から第64号までの6本は、2012年3月決算に係る監査(および2012年9月中間決算に係る中間監査)から適用されます。


No

ISA,ISQC

ISA,ISQCに対応する監査基準委員会報告書

報告書の号数

公表日等

1

ISQC 1

「監査事務所における品質管理」

*1

公開草案公表(H23.1.21)

2

ISA 200

「財務諸表監査における総括的な目的」

51号

中間報告公表(H22.7.30)

3

ISA 210

「監査業務の契約条件の合意」

公開草案公表(H23.5.27)

4

ISA 220

「監査業務における品質管理」

公開草案公表(H23.1.21)

5

ISA 230

「監査調書」

45号

中間報告公表(H22.6.23)

6

ISA 240

「財務諸表監査における不正」

40号

中間報告公表(H20.10.31)

7

ISA 250

「財務諸表監査における法令等の検討」

公開草案公表(H23.5.20)

8

ISA 260

「監査役等とのコミュニケーション」

52号

中間報告公表(H22.7.30)

9

ISA 265

「内部統制の不備に関するコミュニケーション」

53号

中間報告公表(H22.7.30)

10

ISA 300

「監査計画」

37号

中間報告公表(H20.10.31)

11

ISA 315

「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示のリスクの識別と評価」

38号

中間報告公表(H20.10.31)

12

ISA 320

「監査の計画及び実施における重要性」

42号

中間報告公表(H22.2.23)

13

ISA 330

「評価したリスクに対応する監査人の手続」

39号

中間報告公表(H20.10.31)

14

ISA 402

「業務を委託している企業の監査上の考慮事項」

公開草案公表(H23.5.27)

15

ISA 450

「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」

43号

中間報告公表(H22.2.23)

16

ISA 500

「監査証拠」

46号

中間報告公表(H22.6.23)

17

ISA 501

「特定項目の監査証拠」

47号

中間報告公表(H22.6.23)

18

ISA 505

「確認」

54号

中間報告公表(H22.7.30)

19

ISA 510

「初年度監査の期首残高」

公開草案公表(H23.6.13)

20

ISA 520

「分析的手続」

55号

中間報告公表(H22.7.30)

21

ISA 530

「監査サンプリング」

48号

中間報告公表(H22.6.23)

22

ISA 540

「会計上の見積りの監査」

44号

中間報告公表(H22.2.23)

23

ISA 550

「関連当事者」

57号

中間報告公表(H23.1.7)

24

ISA 560

「後発事象」

59号

*2

25

ISA 570

「継続企業」

公開草案公表(H23.5.20)

26

ISA 580

「経営者確認書」

56号

中間報告公表(H22.7.30)

27

ISA 600

「グループ監査」

41号

中間報告公表(H22.2.23)

28

ISA 610

「内部監査の利用」

49号

中間報告公表(H22.6.23)

29

ISA 620

「専門家の業務の利用」

50号

中間報告公表(H22.6.23)

30

ISA 700

「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」

60号

*2

31

ISA 705

「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」

61号

*2

32

ISA 706

「独立監査人の監査報告書における強調事項区分とその他の事項区分」

62号

)*2

33

ISA 710

「過年度の比較情報−対応数値と比較財務諸表」

63号

*2

34

ISA 720

「監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」

64号

*2

35

ISA 800

「特別目的の枠組みに従って作成された財務諸表に対する監査」

36

ISA 805

「単独財務諸表、財務諸表の特定の要素、科目又は項目に対する監査」

37

ISA 810

「要約財務諸表に関する報告業務」

*1  品質管理基準委員会報告書第1号

*2  2012年3月決算に係る監査(2011年9月中間決算に係る中間監査)から適用
(注)上記表は日本公認会計士協会「監査基準委員会報告書の新起草方針の概要」と日本公認会計士協会ホームページを基に作成しました。

4.最後に

経済が国際化した現在では、比較可能性の観点から、世界的に同一の基準で財務諸表が作成され、さらに同一の基準によって監査が行われることが求められます。そうすれば投資家は、同じ基準で作成され、同じ保証水準で監査証明が付された財務諸表を利用できることになり、国際的な経済活動を安心して行うことができます。

日本の監査基準の内容は、従来の国際監査基準の内容に近いものとなっていましたが、今回、国際監査基準が改訂されたことを踏まえて、日本は、クラリティ版の国際監査基準に合わせた監査基準の導入を急いでいます。また、今回の改訂によって、従来の実務指針等が監査基準委員会報告書として整備されるなど、監査基準の内容だけではなく、日本の監査基準の体系も国際監査基準の体系とほぼ同じになる予定です。

次回以降、国際監査基準(ISA)と、それに対応する改訂後の日本の監査基準を一つずつ取り上げながら、各監査基準の内容を見ていき、今後の監査にどのような影響があるのかを考えてみたいと思います。

 
参考文献
2010、内藤文雄・松本祥尚・林隆敏編著、「国際監査基準の完全解説」、中央経済社
2011、日本公認会計士協会資料「監査基準委員会報告書の新起草方針の概要」
日本公認会計士協会ホームページ http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/index.html

 

執筆者:吉田隆伸
 

編集後記
 
 

東京は暑い日が続いています。
私は、暑いだけでは夏が来たとは感じないのですが、空に大きな入道雲が浮んでいるのを見ると、夏が来たんだな〜、と実感します。
夏の青空に入道雲が広がっていると、空の大きさを改めて感じることができるのでとても好きです。思わず長い時間、空を見上げて楽しんでしまいます。

日本には四季があるおかげで、それぞれの季節で景色を見る楽しみがあります。
春は桜、秋は紅葉、冬は雪景色が定番だと思いますが、夏は私のように入道雲の青空であったり、海であったり、花火であるなど沢山の選択肢があると思います。

皆さんが夏を実感する景色は何でしょうか?
 
執筆者:村田博明
 


       
 
 

  明誠ニュースレター vol.10
2011年7月15日発行
発行責任者:武田剛
編集スタッフ:梅原剛、清水真太郎、大森麻利子、村田博明
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