明誠グループニュースレター

情報フラッシュ [ 連載記事 ]
IFRS(国際財務報告基準)第11回 IAS第23号「借入費用」
国際監査基準のクラリティ版について解説(第3回)監査基準委員会報告書第61号「独立監査人の報告書における除外事項付意見」について
[ トピック解説 ]
為替デリバティブと金融ADRについて
社会保障・税の番号制度

情報フラッシュ

 
発表日時 表題
平成23年9月16日 日本公認会計士協会は、循環取引に代表される不適切な会計処理に係る課徴金の勧告事案が最近増加傾向にあることを鑑み、会長通牒「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」を公表しました。
平成23年9月16日 日本公認会計士協会(業種別委員会)は、「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」等 及び「監査報告書の文例」の公表を受け、「『投資信託及び投資法人における当面の監査上の取扱い』の改正について」(公開草案)を公表しました。
平成23年9月30日 「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び「包括利益の表示に関する会計基準」の策定等に伴い、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」が公布されました。

トピック解説

 

 

為替デリバティブと金融ADRについて

1.はじめに

昨今の急激な円高傾向のなか、中小企業等が為替デリバティブで生じた損害の賠償を金融機関に求める「金融ADR」を申し出るケースが急増しているとのニュースが話題になっています。

背景としてどんな状況があるのか、また、その救済の制度としてどんなものがあるのかについて述べていきます。

[1]為替デリバティブ

デリバティブとは、通貨・金利・債券・株式などの現物商品などから派生した金融商品のことをいい、一般的には、先渡・先物・スワップ・オプションに分類され、主にリスクヘッジ・投機目的で利用されています。

為替デリバティブには、通貨先物、通貨オプション、通貨スワップ等があり、代表例として通貨オプションとは、将来の一時点において、予め設定されたレートで、ある通貨を売る権利をプットオプション、買う権利をコールオプションといい、この権利を売買する取引をいいます。

通貨オプション 買い手 売り手
収益 不確定 オプション料のみ
費用・損失 オプション料のみ 不確定

費用・損失に着目すると、オプションの買い手の費用は限定的ですが、売り手の費用・損失については不確定であり、レートの変動によっては大きな損失を被る可能性があります。


[2]円高とデリバティブ被害

2005年頃から、金融機関等は公的資金の返済に追われ、その業績・信用回復が必達の課題でした。その頃から営業の格好の材料となったものとして、デリバティブは手数料収入を確実に見込めることもあり、盛んに契約が結ばれていたようです。また、特に資金需要がある中小企業等は、金融機関による融資との抱き合わせ営業により為替デリバティブ契約を結んでしまったというケースも少なくなかったようです。

ここで、輸入型の通貨オプション取引、例えば、海外仕入に必要なドルを固定金額(例えば1ドル105円)で買うことができるオプションを購入し、同時に同額でドルを売るオプションを売却するという複合オプション契約を、一定期間に渡り結んだケースを考えてみます。1ドル80円を割る現在の為替レートにおいては、企業側はオプションを行使しませんが、金融機関の行使には応じる義務があるため、1ドル当たり25円以上高くドルを買わされ続け、その履行ごとに為替差損を計上することになります。

企業にとっては、単に資金が流出することもさることながら、せっかく積み上げた営業利益が営業外費用で吸われてしまい、経常利益が悪化することになるため、このような状況下での追加の融資依頼をするには難しいことが想定されます。


(参考)
為替レート 2004年末 2005年末 2006年末 2007年末 2008年末 2009年末 2010年末

2011年

(9月末)
1ドルあたり 103円 118円 119円 113円 90円 92円 82円 77円

[3]実態

金融商品・サービスの多様化・複雑化が進む中、また、円高の急激な進行で、為替デリバティブにより被害にあっている中小企業等がいよいよ悲鳴を上げたということのようです。

金融庁発表の2011年3月11日の報道によると、2004年度以降に販売された中小企業向け為替デリバティブ取引契約(米ドル/円)に関して、銀行(121行)に対し、2010年9月30日時点における状況の聞取り調査を行っており、結果を要約すると以下の通りになります。

(1)契約数(2004年〜2010年9月末)
イ.銀行が販売契約した合計は約63,700件であり、2004〜2007年を中心に(全体の約8割)契約されていた
ロ.残存する契約の合計は約40,500件であり、2004〜2007年販売のものを中心に(全体の約8割)残存している
ハ.契約を保有する企業数は約19,000社にのぼる

また、リーマンショックが発生した2008年を境に、販売契約数が大幅に減少していることも示唆されています。

(2)苦情件数(2010年1月以降に寄せられたもの)
イ.銀行への為替デリバティブに関するもの548件(約300社)
ロ.金融庁への為替デリバティブに関するもの195件
ハ.全国銀行協会へのデリバティブに関するもの260件(その過半が為替デリバティブに関するもの)

以上の状況の中、自主的な苦情処理・紛争解決のみでは、中立性・公正性・実行性の面で不安、裁判にはお金や時間がかかる、金融分野の専門的な分野のトラブルは敷居が高い等の理由により、万全な解決が図られる体制であったとは必ずしも言えませんでした。そこで昨今、金融ADRの利用が活発化しているとのことです。

2.救済手段としての金融ADR制度

[1]制度の概要

金融ADR制度とは、金融分野における裁判外の紛争解決制度をいいます。2009年6月に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」により、金融商品取引法を含む16の金融関連の法律において、制度の中核となる指定紛争解決機関制度が創設され、金融・保険・証券などの業態ごとの共通の枠組みが横断的に整備されることとなりました。この指定紛争解決機関制度は、金融機関が、その行う業種を対象とする指定紛争解決機関との間で手続実施基本契約を締結するよう義務づけられたことで、2010年10月より本格的にスタートしています。

金融商品・サービスの利用者保護の充実・利用者からの信頼性の向上のため、金融商品・サービスに係るトラブルを迅速・簡便・柔軟に解決する手段として活用されています。この制度により、金融機関は利用者からの紛争解決の申立てに応じなければならず、金融ADR機関から提示された和解案は原則として受け入れなければなりません。


[2]制度のポイント
イ.金融商品・サービスの利用者と金融機関とのトラブルを、裁判以外の方法により、短時間・低コストで解決を図る制度であること
ロ.金融ADR機関に所属する金融分野に見識のある弁護士等の中立・公正な専門家が第三者的立場から和解案を提示し解決に努めること

また、金融庁が発行する利用者向けパンフレットのQ&Aや政府広報によると、金融ADR機関の利用料は一部を除き無料であること、紛争解決までの標準的な処理期間は2~6ヶ月程度であることを示しており、金融ADR機関の中立性・公正性の確保が図られていること等を重ねて強調しています。


[3]制度の成果

金融庁作成資料(紛争解決手続実施状況(2010年10月1日~2010年12月31日))によると、全国銀行協会においては、この期間での受付件数の98件は前年同期の約5倍にのぼり、累積受付件数152件の大半を占めていることが分かります。このうち、既済となった案件が33件(うち、デリバティブに関するものが19件)あり、紛争解決委員が提示する和解案により解決した件数は11件であったことから、金融ADR制度の本格スタート直後は3分の1程度が和解に成功したという状況にあるようです。

具体的な事例として、説明不十分で契約させられたデリバティブ取引の解約要求の申立てが和解に至った例を紹介すると、A社のメインバンクであるB銀において、A社の商品仕入価格と為替変動の相関性の検証や、本件デリバティブ取引に基づき発生しうる損失に対するA社の財務上の耐久力についての検証が不十分であったと判断されたというものです。これにより本件デリバティブ取引を中途解約する旨の合意を成立させ、B銀が解約清算金の一部を負担するあっせん案が提示され、双方が受諾したことであっせんが成立しています。時系列でみると、2010年5月に適格性ありとして申立が受理され、同年6月にA社とB社より事情聴取、同年10月に和解契約締結となっています。

3.今後の影響・課題

今後も利用者が増えることが予想されますが、多数の解決事例が出てくるにつれ、金融商品・サービスについての理解が世の中に広まることで、取引自体の適正化が図られることが期待されます。一方で、被害に悩む企業や金融機関が本来あるべき姿を取り戻すためには、金融商品・サービスのトラブルを未然に防ぐ当事者間のより一層の努力と、この金融ADR制度の更なる周知が必要と考えます。また、金融庁の方針として、金融ADR機関の同質性の確保と相互連携を重視し、将来的には包括的・横断的金融ADRを目指すとしていますが、制度の普及状況をみながら段階的に見直しを検討していくとしているようです。

 
執筆者:町出 知則
 

 

社会保障・税の番号制度

1.はじめに

平成23年6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部から「社会保障・税番号大綱」が公表されました。本稿では、税の番号制度について解説していきたいと思います。

2.背景・課題

現在我が国においては、少子高齢化により高齢者の増加と労働力人口の減少が続いており、また格差拡大への不安が高まっています。そのような中、国民の生活に関わる制度の設計を行うには、情報化の進展を踏まえて制度・運営の効率性や透明性を高めるとともに、給付や負担の公平性を国民が実感できるということも重要となってきます。そのため社会保障の制度改革をすすめるには、まず国民のコンセンサスが必要となり、その前提として現状に関する認識が共有されている事が不可欠となります。

番号制度の導入に当たり行政側には、複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるという事の確認を行うための基盤が無かったため、以下のような課題が存在します。

・所得の申告漏れを防止するために税務署に提出される法定調書(取引情報)のうち、名寄せが困難なものについては活用に限界がある。
・より正確な所得・資産の把握に基づく柔軟できめ細やかな社会保障制度・税額控除制度の導入が難しい(所得比例年金や給付付き税額控除等)
・長期間にわたって個人を特定する必要がある制度の適正な運営が難しい(年金記録の管理等)
・医療保険等において保険者等の関係機関相互の連携が非効率(旧保険証利用を原因とした過誤調整事務等)
・養子縁組による氏名変更を濫用された場合に個人の特定が難しい

また、名寄せに関しては賛否がありますが、法令上「名寄せを許された人か」「目的は適法か」などを確認する仕組みが必要となります。

3.番号制度で何が出来るのか

[1]よりきめ細やかな社会保障給付の実現

社会保障の給付や負担の状況に関する情報を、国・地方公共団体等相互間で、正確かつ効率的にやり取りする事で、以下に例示するように、個人や世帯の状況に応じたきめ細やかな社会保障給付の実現が可能となります。

・社会保障の各制度単位ではなく家計全体をトータルに捉えて医療・介護・保育・障害に関する自己負担に上限を設定する「総合合算制度(仮称)」の導入
・高額医療・高額介護合算制度において、自己負担限度額の上限に達した場合、国民が医療機関や介護事業者に費用を立て替えることなく、その後の医療・介護サービスを受ける事が出来るようにすること
・給付過誤や給付漏れ、二重給付等の防止
[2]所得把握の精度の向上等の実現に関するもの

税務当局が行う国税・地方税の賦課・徴収に関する事務に「番号」を活用する事により、各種所得情報や扶養情報について効率的に名寄せ・突合することが可能となり、より正確な所得把握が可能となります。

[3]災害時の活用に関するもの

防災福祉の観点から、以下のような取組に活用可能です。

・災害時要援護者リストの作成及び更新
・災害時の本人確認
・医療情報の活用
・生活再編への効果的な支援
[4]自己の情報の入手や必要なお知らせ等の情報の提供に関するもの

社会保障・税に関する自分の情報や、利用するサービスに関する情報を自宅のパソコン等から容易に閲覧可能となり、必要なサービスを受けやすくなるなど利便性が高まります

[5]事務・手続きの簡素化、負担軽減に関するもの

国・地方公共団体間で、申請等に必要な情報を適時にやりとりすることで、事務・手続きの簡素化が図られ、国民及び国・地方公共団体等の負担が軽減され、利便が高まります

・所得証明や住民票の添付省略
・医療機関における保険資格の確認
・法定調書の提出に係る事業者負担の軽減
[6]医療・介護等のサービスの質の向上等に資するもの

地方公共団体からの提案には、行政等の事務手続の効率化等に関するもののほか、医療・介護等のサービスの質や公衆衛生・医療水準の向上に資するため、以下のようなものが含まれています

・継続的な検診情報・予防接種履歴の確認
・授乳時検診履歴等の継続的把握による児童虐待等の早期発見
・難病等の医学研究等において、継続的で正しいデータの蓄積が可能となる
・地域がん登録における患者の予後の追跡が容易となる
・介護保険被保険者が市町村を異動した際、異動元での認定状況、介護情報の閲覧が可能となる
・各種行政手続きにおける診断書添付の省略
・年金手帳、医療保険証、介護保険証等の機能の一元化

4.番号制度に必要な3つの仕組み

番号制度を複数の機関に存在する個人や法人の情報を同一人の情報であるという事の確認を行うための基盤として構築するためには、以下の3つの仕組みが必要になります。

[1]付番

新たに国民一人ひとりに、唯一無二の、民-民-官で利用可能な、見える「番号」を最新の住所情報と関連付けて付番する仕組み

[2]情報連携

複数の機関において、それぞれの機関ごとに「番号」やそれ以外の番号を付して管理している同一人の情報を紐付けし、紐付けられた情報を活用する仕組み

[3]本人確認

個人や法人が「番号」を利用する際、利用者が「番号」の持ち主である事を証明するための本人確認(公的認証)の仕組み

5. 今後の検討事項

番号制度の実施に伴い、以下のような事項が懸念されます。

[1]国家管理への懸念

国家により個人の様々な個人情報が「番号」をキーに名寄せ・突合されて一元管理されるのではないかといった懸念。

保護措置として、第三者機関による監視や、自己情報へのアクセス記録の確認といった事が考えられます。

[2] 個人情報の追跡・突合に対する懸念

「番号」を用いた個人情報の追跡・名寄せ・突合が行われ

・集積・集約された個人情報が外部に漏えいするのではないかといった懸念
・集積・集約された個人情報によって、本人が意図しない形の個人像が構築されたり、特定の個人が選別されて差別的に取り扱われたりするのではないかといった懸念。

保護措置として、法令上の規制等の措置、第三者機関による監視、罰則強化といった事が考えられます。

[3] 財産その他の被害への懸念

「番号」や個人情報の不正利用又は改ざん等により財産その他の被害を負うのではないかといった懸念

保護措置として、社会上の規制等の措置、罰則強化といった事が考えられます。

6. おわりに

番号制度が導入されると、社会保障と税を一体として捉える事が可能となり、より正確な所得等の情報に基づいて、適切に所得の再分配を行う事が出来るようになります。そして今まで以上に社会保障給付を適切に受ける権利を守る必要が生じるため、給付や負担に公平性のある制度運営が要求されます。

しかしながら、番号制度を安心して利用するためには、第三者機関による監視や罰則強化といった制度上の保護措置に加え、個人情報および通信の暗号化やアクセス制限といった、システム上の安全措置を一層強化する事が望まれるため、今後の動向に注目が必要となります。

 
参考文献
・旬刊経理情報3/10
・社会保障・税番号大綱
・社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針
・社会保障・税に関わる番号制度(富士通総研)
 
執筆者:菅野祐
 


連載記事

 
 

IFRS(国際財務報告基準)第11回 IAS第23号「借入費用」

1.はじめに

今回は、IAS第23号「借入費用」(以下、IAS第23号という。)について紹介します。

2.範囲及び定義

IAS第23号は、借入費用の会計処理に適用しなければなりませんが、以下のものの取得、建設又は生産に直接起因する借入費用に適用する必要はありません。

[1]公正価値で測定される適格資産
[2]繰り返し大量に製造される棚卸資産

ここで、借入費用とは、企業の資金の借り入れに関連して発生する利息及びその他の費用をいい、実効金利法で計算した利息費用やファイナンス・リースに関する財務費用を含みます。また、適格資産とは、意図した使用又は販売が可能となるまでに相当の期間を要する資産をいいます。

3.認識

適格資産の取得、建設又は生産に直接起因する借入費用については、当該資産の取得原価の一部として資産化しなければならず、その他の借入費用については、発生した期間の費用として認識しなければなりません。

一方我が国の会計基準においては、認識の範囲は限定的であり、固定資産を自己建設した場合で、稼働期間前の期間に属する、建設に要する借入資本の利子、及び不動産開発事業において一定の条件を満たす支払利子については資産計上することが容認されております。

[1]資産化に適格な借入費用

資産化に適格な借入費用は以下のように決定します。

(1)企業が適格資産を取得するために特別に資金を借り入れた場合

当該借入に関して実際に発生した借入費用から、当該借入の一時的な投資により稼得した投資利益を控除した額。

例題

A社は2011年7月1日に工場建設を開始し、建設に必要な資金10,000は、同日にB銀行から年利3.00%で融資を受けた。借入実施後、支出するまでの期間にC社に貸付を行った結果、50を受け取った。なお、A社は3月決算である。

資産化すべき借入費用: (10,000×3.00%×8ヵ月/12ヵ月)−50=150

(2)企業が一般目的で借入を行い、適格資産を取得するために当該資金を使用した場合

適格資産を取得するために特別に借り入れた資金を除く、企業の当期中の借入金残高に対する加重平均に基づく資産化率を使用して算定された借入費用。なお、期中に資産化される借入費用の金額は、期中に発生した借入費用の金額を超えてはなりません。

例題

A社は2011年4月1日に工場建設を開始し、建設に必要な資金10,000は一般目的の借入金を利用している。一般目的の借入金はB・C銀行より行われており、いずれの銀行からの借入金を建設目的に使用したかは不明である。なお、A社は3月決算である。

(資料)
B銀行 借入金:20,000 利率:2.00% 借入費用:400
C銀行 借入金:30,000 利率:4.00% 借入費用:1,200
いずれの借入れも前期以前に行われている。
資産化率の算定:(400+1,200)/(20,000+30,000)×100%=3.2%
資産化すべき借入費用:320(10,000×3.2%)≦1,600(400+1,200) ∴320
[2]資産化の開始、中断及び終了

企業は、適格資産の取得原価の一部としての借入費用の資産化を、(1)資産に係る支出が発生し、(2)借入費用が発生し、(3)かつ意図した使用又は販売に向けての必要な活動に着手した時点から開始し、意図した使用又は販売に向けての必要な活動が実質的にすべて完了した時点で資産化を終了しなければならず、活動が中断している期間中は、資産化を中断しなければなりません。

また、適格資産の建設を部分的に完成し、他の部分の建設が継続していても完成した部分の使用が可能である場合には、当該部分を意図した使用又は販売のために準備するのに必要な活動が実質的に全て完了した時点で、資産化を終了しなければなりません。このような適格資産の例としては、数棟の建物からなるビジネスパークで、それぞれの建物が別々に使用できるものがあります。

4.開示

借入費用の資産化が行われた場合には、財務諸表に次の事項を開示する必要があります。

[1]当期中に資産化した借入費用の金額
[2]借入費用の金額の算定に使用した資産化率

5.おわりに

借入費用の資産化に対する取り扱いは、我が国の会計基準と大きく取り扱いが異なります。他の固定資産に関する基準と併せて十分に理解しておく必要があると考えられます。

 
執筆者:関和輝
 


 

国際監査基準のクラリティ版について解説(第3回)
監査基準委員会報告書第61号「独立監査人の報告書における除外事項付意見」について

1.基準の概要

今回は、監査基準委員会報告書第61号「独立監査人の報告書における除外事項付意見」(以下「監査基準61号」という。)について解説します。

クラリティ版の国際監査基準に対応した新しい日本の監査基準6本が、2012年3月決算に係る監査(2011年9月中間決算に係る中間監査)から適用されます。この新しい監査基準6本のうちの1本が、監査基準委員会報告書第61号「独立監査人の報告書における除外事項付意見」であり、これは国際監査基準(ISA)705「独立監査人の報告書における監査意見の修正」に対応した基準です。

なお、監査基準委員会報告書第61号の内容は、ISA705の内容と非常に近いものになっています。

2.「独立監査人の報告書における除外事項付意見」の対象

監査基準61号は、監査人が財務諸表等に対して、無限定意見以外の意見(除外事項付意見)を表明する場合について規定しています。

監査意見は大きく、(1)無限定意見と(2)除外事項付意見に分かれ、さらに、除外事項付意見は3種類に分かれます。以下の表は監査意見の種類を整理したもので、対応する国際監査基準(ISA)の監査意見の種類も記載しています。


表1:監査意見の種類

日本基準

ISA700, ISA705

(1)無限定意見(無限定適性意見)

(1)無修正意見(unmodified opinion)

(2)除外事項付意見

(2)修正意見(modified opinion)

@限定意見(限定付適性意見)

@限定意見(qualified opinion)

A否定的意見(不適正意見) A否定意見(adverse opinion)
B意見不表明(意見不表明) B意見不表明の旨(disclaimer of opinion)
*日本基準の(  )内は適正表示の枠組みの場合の意見を示している。

3.除外事項付意見の類型

監査人は、財務諸表に重要な虚偽表示があると判断する場合、または十分かつ適切な監査証拠の入手が困難であることが明らかになった場合には、除外事項付意見を表明することになります。

除外事項付意見には3種類ありますが、どの意見が表明されるかは、その原因となった事項の重要性や影響の範囲に応じて変わります。以下の表は、除外事項付意見が表明される原因と意見の種類を整理したものです。


表2:除外事項付意見の類型
除外事項付意見を表明する原因の性質 除外事項付意見を表明する原因が、財務諸表に及ぼす影響の範囲または影響の可能性についての監査人の判断
重要だが広範ではない 重要かつ広範である
財務諸表に重要な虚偽表示があること 限定意見(限定付適性意見) 否定的意見(不適正意見)
十分かつ適切な監査証拠が入手できず、重要な虚偽表示の可能性があること 限定意見(限定付適性意見) 意見不表明

上記の表における「重要な虚偽表示」とは、監査基準61号では、@選択した会計方針の適切性、A選択した会計方針の適用、B財務諸表の開示の適切性又は十分性に関連して発生するものとされており、その原因の例示も示されています(表3)。


表3:重要な虚偽表示の発生原因

発生原因

重要な虚偽表示が発生する原因の例示

@選択した会計方針の適切性

・選択した会計方針が、適用される財務報告の枠組みに準拠していない。

・関連する注記を含む財務諸表が、基礎となる取引や会計事象を表しておらず、適正に表示していない。

A選択した会計方針の適用

・経営者が、選択した会計方針を、適用される財務報告の枠組みに準拠して一貫して適用していない。

・選択した会計方針の適用方法の誤り(意図的でない誤りも含む)。

B財務諸表の開示の適切性又は十分性

・財務諸表において、適用される財務報告の枠組みが求める開示の全部又は一部が含まれていない。
・財務諸表の開示事項が、適用される財務報告の枠組みに準拠して表示されていない。

・財務諸表において、適正表示のために必要な開示が行われていない。

また、表2における「十分かつ適切な監査証拠が入手でき」ない状況とは、監査基準61号では、@企業の管理の及ばない状況、A監査人の作業の種類又は実施時期に関する状況、B経営者による監査範囲の制約がある場合に発生するものとされており、またその原因の例示も示されています(表4)。


表4:十分かつ適切な監査証拠が入手できない状況の発生原因

発生原因

重要な虚偽表示が発生する原因の例示

企業の管理の及ばない状況

・企業の会計記録が滅失している。

・重要な構成単位の会計記録が行政当局により長期にわたり差し押さえられている。

監査人の作業の種類又は実施時期に関する状況

・監査人の選任の時期により、棚卸資産の実地棚卸に立会うことができない。

・監査人は、実証手続の実施のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないと判断しているが、これに関連する企業の内部統制が有効でない。

経営者による監査範囲の制約

・監査人による実地棚卸の立会を経営者が拒否している。

・特定の勘定残高に関する外部確認についての監査人の要求を経営者が拒否している。

監査基準61号では、上述のように、虚偽表示の重要性や監査証拠の入手の状況に応じて、除外事項付意見の種類が決定されるように詳細に記載されています。

4.監査報告書の様式

監査基準では、監査報告書は一定の様式に従って作成されることが求められています。監査意見が限定付意見になる場合の監査報告書の記載形式は以下のようになります。


表5:監査報告書の形式(限定付意見の場合)

監査報告書の記載形式

<財務諸表監査>
(導入部) 監査対象の組織体名、各財務諸表等
「財務諸表に対する経営者の責任」
「監査人の責任」
「除外事項付意見の根拠」
「監査意見(限定付意見)」
<法令等が要求するその他の事項に対する報告>

「利害関係」

除外事項付意見が出される場合には、監査意見の直前に、「除外事項付意見の根拠」の区分を設けて、除外事項付意見が出された理由を記載することになります。例えば、財務諸表の特定の金額について重要な虚偽表示が存在する場合には、「除外事項付意見の根拠」の区分に、その金額的な影響額とそれに関する説明が記載されます。

5.最後に

ISA705に対応して、2012年3月決算に係る監査(2011年9月中間決算に係る中間監査)から新しい日本の監査基準が適用されることで、除外事項付意見に係る監査報告書の様式が変更されます。これは、財務諸表の利用者が、実施された監査の結果をより明確に理解するために行われるものと言えます。ただ、除外事項付意見を表明するための判断や評価については、今までと実質的に変わるところはないものと考えられます。

 
参考文献
2009、IFAC、ISA705 Modifications to the Opinion in the Independent Auditor’s Report
2010、内藤文雄・松本祥尚・林隆敏編著、「国際監査基準の完全解説」、中央経済社
2011、日本公認会計士協会資料「監査基準委員会報告書の新起草方針の概要」
2011、日本公認会計士協会、監査基準委員会報告書第61号「独立監査人の報告書における除外事項付意見」
日本公認会計士協会ホームページ http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/index.html
 
執筆者:吉田隆伸
 

編集後記
 
 

長かった猛暑の夏も終わり、本格的な秋の到来です。青い空と高い雲、爽やかな空気を感じながら外を歩くと、過ごしやすく気持ちのいい季節になったことを実感します。とはいえ、寒暖の差が激しく体調を崩しやすい時期でもありますので、皆さん健康には十分にお気を付け下さい。

昨年10月号よりスタートした明誠ニューズレターの創刊から、ちょうど一年が経ちました。試行錯誤で進めてきた発行作業も段々と軌道にのり、多くの皆様の応援やご協力のおかげでここまで来ることができました。私自身、英語版への翻訳作業で学ぶことが多く、毎回必死ながらも楽しみながら取り組んでいます。まだ勉強不足な点が多々ありますが、少しでも質の高い情報を皆様にお届けできるよう、今後も努力していきたいと思います。

 
執筆者:大森 麻利子
 


       
 
 

  明誠ニュースレター vol.12
2011年10月17日発行
発行責任者:武田剛
編集スタッフ:梅原剛、清水真太郎、大森麻利子、村田博明
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