明誠グループニュースレター

情報フラッシュ [ 連載記事 ]
IFRS(国際財務報告基準)第14回 IAS第11号「工事契約」
国際監査基準のクラリティ版について解説(第6回) 「財務諸表監査における不正」「財務諸表監査における法令の検討」について
[ トピック解説 ]
税制改正の概要
グリーンペーパーの最終版公表について
税制改正の会計への影響

情報フラッシュ

 
発表日時 表題
平成23年12月5日 日本公認会計士協会より業種別委員会実務指針第47号「特定目的会社に係る監査上の実務指針」が公表されました。 これは、業種別委員会報告第31号「特定目的会社の計算書類等の様式及び監査報告書の文例」を大幅に見直し、新設したものです。
平成23年12月5日 日本公認会計士協会より、「XBRLデータに対する合意された手続」が公表されました。
平成23年12月10日 2012年度の税制改正大綱が閣議決定されました。
平成23年12月14日 法務省より、会社法制の見直しに関する中間試案が出されました。
平成23年12月22日 ASBJがIASBの改訂公開草案「顧客との契約から生じる収益」に関する意見募集を開始しました。
平成23年12月22日 ASBJが実務対応報告公開草案第37号「改正法人税法及び復興財源確保法に伴う税率変更等に係る四半期財務諸表における税金費用の実務上の取扱い(案)」を公表しました。
平成23年12月22日 日本公認会計士協会が、「新起草方針に基づく品質管理基準委員会報告書及び監査基準委員会報告書並びに監査・保証実務委員会実務指針の最終報告書の公表について」を発表しました。
平成23年12月23日 日本公認会計士協会より「IT委員会実務指針第6号「ITを利用した情報システムに関する重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び評価したリスクに対応する監査人の手続について」が公表されました。

トピック解説

 

 

税制改正の概要

1.概要

経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律案(以下、所得税法等の一部を改正する法律案)および東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法案(以下、財源確保法案)について、11月30日の参院本会議で可決・成立されました。

以下では、所得税法等の一部を改正する法律案と財源確保法案について詳しく説明します。

2.所得税法等の一部を改正する法律案

所得・消費・資産等にわたる税制の抜本改革の実現に向けて、経済活性化と財政健全化を一体として推進するという枠組みの下で、現下の厳しい経済状況や雇用情勢に対応する等の観点からの税制の抜本改革の一環をなす緊要性の高い改革として、所得税の諸控除の見直し、法人税率の引下げ、雇用促進税制及び環境関連投資促進税制の創設、相続税の基礎控除及び税率構造の見直し、地球温暖化対策のための課税の特例の創設、寄附税制の拡充、納税環境の整備、租税特別措置の見直し等所要の措置を講ずることとしています。


項目 摘要期間及び内容
@  法人税率の引下げ 平成24年4月1日以後に開始する事業年度
普通法人30%→25.5%
中小法人22%→19% (内容は下記で説明)
A-1 損金の繰越控除の制限 平成24年4月1日以後に開始する事業年度(内容は下記で説明)
A-2 欠損金の控除期間の延長(7年→9年) 平成20年4月1日以後終了事業年度で生じた欠損金額から適用(内容は下記で説明)
B貸倒引当金制度の縮減 平成24年4月1日以後に開始する事業年度(内容は下記で説明)
Cエネルギー需給構造改革推進投資促進税制の廃止 青色申告書を提出する法人が平成4年4月1日から平成24年3月31日までの期間内に新品のエネルギー需給構造改革推進設備等を取得等して、その取得等した日から1年以内に国内にあるその法人の営む事業の用に供した場合に、その事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却又は税額控除が認められるという制度が、平成24年4月1日に廃止となりました。
D事業革新設備特別償却の廃止 業革新設備導入計画の計画だけではなく、事業再構築計画、経営資源再活用計画、経営資源融合計画の認定を受けると、その計画に従った設備を導入した場合の設備について、25%または20%の特別償却の措置を受けることができるという制度が、平成24年4月1日に廃止となります。
E減価償却制度の見直し 平成24年4 月以降に取得する資産の定率法を現行の250%から200%に変更されます。

(1)について

普通法人では30%から25.5%、中小法人では22%から19%に法人税率が引き下げられます。我が国の法人税の実効税率は40.69%と諸外国に比べて高く、企業の国際競争力低下や投資の海外流出への危機感があったことが背景にあり、国内企業の海外への移転による空洞化を緩和する方向に働くと期待されています。また、海外企業の立地選択においても我が国の魅力低下が軽減されることから、対内直接投資の増加につながることも期待されています。

財務省によりますと、法人税率5%引下げによる法人税減税の規模は1.5 兆円となり、その他の中小企業向け減税や雇用促進などをあわせると合計1.6 兆円あまりの減税となります。しかし一方で、財源を捻出するために法人向けの優遇税制などを縮小するため、実質的な減税の規模は6000 億円程度になるとみられているようです。


(2)@について、

税制改正により、控除できる欠損金額が控除前所得の8割に制限されました。そのため、欠損金できる欠損金繰越控除制度縮小により、過去に巨額赤字を計上した企業では負担が増える場合もあります。その一方、繰越欠損金の繰越期間が現行の7年から9年に延長されるため、メリットを受ける企業も存在すると考えられます。

(2)Aについて、

貸倒引当金制度が利用できるのは、銀行、保険会社その他これらに類する法人及び中小法人等に限定されます。

これらの法人以外の法人の平成23年度から平成25年度までの間に開始する各事業年度については、現行法による損金算入限度額に対して、平成23年度は4の3、平成24年度は4分の2、平成25年度は4分の1の引当てを認める等の経過措置を講じます。

3.財源確保法案

東日本大震災からの復興を図るために集中復興期間(2011年度から15年度までの期間)において実施する施策に必要な財源を確保するため、税外収入に係る措置及び復興特別税の創設のほか、復興債の発行に関する措置等を定めた法案です。


[1] 税外収入に係る措置

税外収入を得るため、日本たばこ産業(JT)株の政府保有比率を3分の1まで下げるなどの方針があります。政府・与党はまず5兆円の税外収入を目指しており、今後10年でJT株を全株売却するなど、7兆円まで税外収入を増やす方針があります。この結果、現在10兆5,000億円を見込む増税額は8兆5,000億円まで減らせるとしています。さらに野田首相は、郵政株の売却などを通じ7兆円からの上積みも目指す考えを示しています。

しかし、問題が多くあります。法案は傘下金融2社への政府関与を残す形で組織を見直すとしており、完全民営化を目指した郵政改革を否定される自民党は反発しています。また、JT株の全株売却も葉タバコ農家保護の観点から自民党の反発が強く、法改正のハードルはとても高くなっています。


[2] 復興特別税

(1)復興特別法人税

平成24年4月1日から平成27年3月31日までの期間に開始する3事業年度において、すべての法人に、以下の計算により課税されます。

課税標準:各事業年度の基準法人税額(所得税額控除及び外国税額控除等を適用しない場合の法人税の額)税率:10%

(2)復興特別所得税

平成24年から25年間にわたり、課税されます。

・個人(永住者)の場合
すべての所得に対する所得税の額(外国税額控除を適用しない場合の所得税の額)の2.1%
・法人(内国法人)の場合
利子及び配当等に対する所得税の額の2.1%

[3]復興債の発行

復興費用の財源として、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、復興債を発行することができる(発行期間:平成23年度から平成27年度までの5年間、償還期限:平成34年度)。 及び、平成23年度1次補正において減額された基礎年金の国庫負担の追加に要する費用の財源として、復興債を発行することができる旨が定められました。

 
【参考文献】

旬刊経理情報 2011年12月20日号 p27-29

第一生命経済研究所 法人税減税は企業投資を活性化させるか 2011年2月17日発行
 
執筆者:桑原由佳
 

 

グリーンペーパーの最終版公表について

1.欧州委員会グリーンペーパーの最終版の概要

2011年11月30日に、欧州委員会からグリーンペーパーの最終版が提案されました。この提案は、欧州連合および欧州議会の承認を受ける必要がありますが、承認されれば、欧州連合内での監査制度が大きく変更されます。


[1]背景

欧州委員会は、2008年の金融危機において、特に銀行や金融機関に対する法定監査の弱点が露呈されたとし、最近の各国の検査報告書においても監査の質が批判されている状況にあるとしています。そして、監査市場を事実上ビッグ4(デロイト、アーンストアンドヤング、KPMG、プライスウォーターハウスクーパース)が支配していることが、システミックリスク(※1)の蓄積の可能性や、利害衝突に関する懸念を生み出しているとしています。

今回の提案は、厳格なルールを導入し監査人の独立性を強化することでこのような状況を改善することを狙いとしています。

[2]概要

提案の主要な項目の内「監査事務所の強制ローテーション」「入札制度」「非監査サービスの禁止」について概要を説明します。

(1)監査事務所の強制ローテーション

監査事務所は、監査契約期間を最大で6年間に制限され、ローテーションを強制されます。さらに、同じクライアントの監査を再度行うには、4年間のクーリングオフ期間を必要とします。ただし、複数の監査事務所による共同監査が行われる場合には、監査の質が向上されるとして最大監査契約期間が9年間に延長できます。共同監査は義務化されませんが、奨励されています。

(2)入札制度

公益企業(※2)が、新しい監査事務所を選定する際には、「オープンかつ透明な入札手続き」の実施を義務付けられます。被監査会社の監査役会は、監査事務所の選定手順に密接に関与する必要があります。

(3)非監査サービスの禁止

監査事務所は、監査クライアントへの非監査サービスの提供を禁止されます。さらに、大手監査事務所は、利害衝突のリスクを回避するために非監査サービスを監査業務から分離する必要があります。

2.米国及び日本での議論

グリーンペーパーで提案されている監査事務所のローテーション制度については、欧州のみならず、米国や日本においても既に議論が開始されています。

米国公開企業会計監視委員会は、2011年8月に「監査人の独立性及び監査事務所のローテーションに関するコンセプト・リリース」を公表しています。当コンセプト・リリースでは、監査事務所の強制ローテーションにより、監査事務所が公開企業の監査人として活動できる連続した期間を制限するとしています。そして、この制限によって、監査人が長期的な顧客関係を発展及び保護するために、クライアントからの圧力の影響を受けることを緩和することができ、「企業の財務報告を新鮮な視点から見る機会を与える」ことができると記載されています。しかしながら、一方で、監査事務所の強制ローテーションの付随コストに関する懸念と監査契約期間の初期年度において監査の品質が損なわれる可能性があるという懸念も記載しています。

また、上記コンセプト・リリースに対して、平成23年12月に、日本の公認会計士協会はコメントを提出しています。当コメントでは、監査事務所の強制ローテーションは、監査人の独立性、客観性及び職業的専門家としての懐疑心を強化するための、検討されうるアプローチのひとつであることは認識しているものの、強制ローテーションには多くの短所が存在するため有効かつ適切な措置ではないと考え、現在の仕組みの有効性を強化する検討を行うことが適切であると考えていると記載されています。

公認会計士協会が、監査事務所の強制ローテーションの短所として列挙している項目は以下の通りです。

(1)監査人及び監査事務所内での知識、経験の蓄積ができない結果、監査人が問題点を発見できないリスクが増加する可能性がある。
(2)監査人及び企業の双方において、時間的負担を含めたコストが増加する。
1)監査人側から見た監査コストの増加

a.新規監査契約受託のためのマーケティングコストが増加する。また、新規受託に関する品質管理手続や、前任監査人と後任監査人の間のコミュニケーション等、監査人の交代に関する手続が増加する。

b.企業に関する知識や経験の不足により企業や企業環境の理解のための手続がより多く必要となる。また、初年度監査を行うことが多くなり、監査計画をゼロから策定する必要がある。また、継続監査と比べて企業に関する知識が不足していることから監査計画が保守的になる傾向がある。結果として、監査コストが増加する。

2)企業から見た監査コストの増加

a.定期的に、次の監査人の選任を行う必要があり、対象とできる監査人の調査等の関連コストが増加する。

b.新監査人は、企業についての知識や経験が浅いため、事業内容や会計方針等、企業及び企業環境について企業が新任監査人に説明する必要が生じる。また、継続的なコミュニケーションが行われていないため、会計処理等に関する監査人との協議に時間がかかる。

(3)新規契約獲得競争の過熱する結果、過当な監査報酬の値下げにつながる可能性がある。
(4)新規契約受託に関連する手続に重点が置かれる結果、監査の品質の強化のためのリソースの投入が削減される。加えて、自動的な監査クライアントの交代により、監査チーム及び監査事務所の監査の品質を向上しようとするモチベーションが低下する。
(5)特に大規模なグループに属する企業の場合、グループ内の構成単位において非監査サービスの提供を多く受けている場合には、監査人の選択が非常に限定される。また、高度かつ専門的な知識が必要な部門の企業に関しても監査人の選択肢は非常に限定され、場合によっては、選択可能な監査人が存在しない可能性もある。

3.最後に

グリーンペーパーの最終版で提案されている監査事務所の強制ローテーションについては、世界的に議論が行われている最中です。監査事務所の強制ローテーションには、上述されているように長所、短所があると考えられます。監査の品質、及び全体としての財務報告の品質の維持・向上という目的を達成するために、監査事務所の強制ローテーションについては、その採用を慎重に検討する必要があります。その中で、今回公表されたグリーンペーパーの最終版が承認された場合には、米国、日本での議論にも大きな影響があると考えられます。当提案の承認が行われるかどうか、また米国及び日本での議論の行方は、今後とも注視が必要です。



※1システミックリスク:1つの金融機関や証券会社の決済不履行が他の金融機関や証券会社の流動性リスクを顕在化させて決済不履行を引き起こし、その決済不履行がさらに他の金融機関や証券会社の決済不履行の原因となるといったように、決済不履行がドミノ倒しのように連鎖してしまうことがあります。このような、1参加者の決済不履行が他の参加者に波及し、決済システム全体あるいは金融システム全体を麻痺させるような危険をシステミックリスクといいます。
※2 公益企業:その事業の性質、企業規模や従業員数により、公共に重要な影響のある企業であり、上場企業や銀行、その他の金融機関及び保険会社のことです。
 
参考文献
・Concept Release on Auditor Independence and Audit Firm Rotation  PCAOB
・Reform of the audit market - Commission proposals - Press release  European Commission
・米国公開企業会計監視委員会(PCAOB)「監査人の独立性及び監査事務所のローテーションに関するコンセプト・リリース」に対するコメント 日本公認会計士協会
 
執筆者:中戸大介
 

 

税制改正の会計への影響

1.はじめに

税制改正の概要に記載されているように、法人税率の引き下げと復興特別法人税が平成24年4月1日より施行されます。これによる税効果会計への影響を見ていきたいと思います。

2.法定実効税率の変更と適用時期

会計上、繰延税金資産、繰延税金負債を計算する際の法定実効税率が影響を受けることとなります。

今後の法定実効税率の推移は以下の表のようになります。


期間 法人税率 復興特別法人税 法定実効税率
平成23年4月1日〜平成24年3月31日 30% 40.69%(注1)
平成24年4月1日〜平成27年3月31日 25.5%
10% 38.01%(注2)
平成27年4月1日以降 25.5% 35.64%(注3)
(注1) (30%+30%×20.7%+7.56%)/(1+7.56%)
(注2) {25.5%×(1+10%)+25.5%×20.7%+7.56%}/(1+7.56%)
(注3) (25.5%+25.5%×20.7%+7.56%)/(1+7.56%)

税率が変更される場合は、改正税法が決算日よりも前に公布されたか否かにより、対応が異なるため注意が必要です。

(1)決算日が改正税法の公布日より前の場合

貸借対照表や損益計算書上の数字に影響はありませんが、税効果会計に関する注記にて税率の変更について内容及びその影響を記載することが求められています。(税効果会計基準第四4)

また、重要性を勘案して開示後発事象として記載するべきか検討する必要もあります。


(2)決算日が改正税法の公布日以後の場合

繰延税金資産、繰延税金負債を計算する際には、回収又は支払が見込まれる期の税率をもとに計算する必要があります。(税効果会計に係る会計基準第二2)

上記に示した表の通り、法定実効税率は年度により異なってくるため、回収又は支払が見込まれる期と、その期の法定実効税率を適切に対応させることが必要となります。

すなわち、平成23年4月1日〜平成24年3月31日において回収または支払が見込まれる一時差異については、40.69%、平成24年4月1日〜平成27年3月31日において回収または支払が見込まれる一時差異については38.01%を、平成27年4月1日以降に回収または支払が見込まれる一時差異については35.64%を用いて繰延税金資産、繰延税金負債を計上します。

3.説例による解説

これについて、設例を用いてみていくこととします。


(決算日が改正税法の公布日以後の場合の設例)
イ.当期末は平成24年3月31日である。
ロ.平成26年度において退任する役員に対する役員退職慰労引当金が10,000計上されている。
(税務上損金として認められない)
ハ.当期末に土地を20,000減損した。(税務上損金として認められていない)
ニ.上記土地は、平成28年3月31日に売却することが計画されている。
ホ.上記以外、会計上と税務上の差異は生じていない。
ヘ.当該会社の繰延税金資産の回収可能性は、監査委員会報告66号の区分3にあたり合理将来の合理的な見積可能期間は5年とする
ト.当設例では回収可能性に問題がなく、全額繰延税金資産を計上できるものとする。

設例における将来減算一時差異の解消に関するスケジューリングは以下のようになる。


  将来減算一時差異 平成25年度 平成26年度 平成27年度 平成28年度 平成29年度
役員退職慰労引当金 10,000   △10,000      
土地 20,000       △20,000  
法定実効税率   38.01% 38.01% 38.01% 35.64% 35.64%

役員退職慰労引当金にかかる一時差異は平成26年度に、土地の減損に係る一時差異は平成28年度に解消されるため、当期末において繰延税金資産に計上される金額は以下のように計算される。

10,000×38.01%+20,000×35.64%=10,929

 
【参考文献】

「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」

「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」
 
執筆者:石川裕也
 


連載記事

 
 

IFRS(国際財務報告基準)第14回 IAS第11号「工事契約」

1.はじめに

今回は、IAS第11号「工事契約」(以下、IAS第11号という。)について紹介します。なお、我が国においては、平成19年12月に、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」が公表されております。

2.適用範囲及び定義

(1)適用範囲

IAS第11号は、施行者の財務諸表における工事契約の会計処理に適用しなければならないとされています。なお、工事契約会計基準においては、受注契約のソフトウェアについても、工事契約に準じて工事契約会計基準を適用することとなっています。

(2)定義

IAS第11号では、工事契約を、単一の資産又はその設計、技術及び機能もしくはその最終的な目的や用途が密接に相互関連又は相互依存している複数の資産の結合体の建築工事のために特別に取り決められる契約と定義しています。

また、工事契約は、価格を固定するか、利益を固定するかで、固定価格の契約とコスト・プラス契約に分かれます。ここで、固定価格の契約とは、施行者が固定された契約価格又は単位出来高当たりの固定単価で請け負う工事契約をいい、コスト・プラス契約とは、許容可能な原価または他の方法で定められた原価に、その原価に対する一定率又は固定の報酬額を上乗せした価格で施行者に支払われる工事契約をいいます。

3.工事契約収益及び工事契約原価

IAS第11号では、工事契約収益及び工事契約原価の構成要素を以下のように規定しています。

(1)工事契約収益
@工事契約で合意された当初の収益額
A建設工事の契約内容の変更、クレーム及び報奨金のうち、収益となる可能性が高く、かつ信頼性をもって測定できるもの
(2)工事契約原価
@特定の契約に直接関連する原価
A当該請負業務全般し、かつその契約に配分できるその他の原価
B契約の条件により、発注者に個別に請求できるようなその他の原価

4.工事契約収益及び費用の認識

IAS第11号では、工事契約の結果が信頼性をもって見積もる事が出来る場合、その工事契約に関連した収益及び原価は、末日現在の進捗度に応じて、収益及び費用として認識しなければならないとされています。このような会計処理は工事進行基準と呼ばれています。

また、固定価格の契約及びコスト・プラス契約については、以下の全ての条件を満たした場合に、信頼性をもって見積もることが出来るとされています。

(1)固定価格の契約の場合
@工事契約収益の合計額が信頼性をもって見積もることが出来る。
A契約に関連した経済的便益が企業に流入する可能性が高い。
B契約の完了に要する工事契約原価と報告期間の末日現在の契約の進捗度の両方が信頼性を持って測定できる。
C契約に帰属させることができる工事契約原価が、実際に発生した工事契約原価を従前の見積りと比較できるように、明確に識別でき、かつ信頼性をもって測定できる。
(2)コスト・プラス契約の場合
@契約に関連した経済的便益が企業に流入する可能性が高い。
A契約に帰属させることが出来る工事契約原価が、個別に支払われるか否かに関わらず、明確に識別でき、かつ信頼性をもって測定できる。

一方、工事契約の成果が信頼性をもって見積もることが出来ない場合には、その見積りが可能となるまで、工事契約収益 は、発生した工事契約原価のうち回収される可能性が高い範囲でのみ認識し、工事契約原価は、発生した期間に費用として認識する工事原価回収基準が適用されます。また、工事契約原価が工事契約収益を超過する可能性が高い場合には、予想される損失は直ちに費用として認識しなければなりません。

なお、我が国の会計基準においては、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度の3つについて信頼性を 持って見積もることが出来る場合には、工事進行基準が適用されますが、この要件を満たさない場合には、工事が完成し、目的物の引渡しを行った時点で、工事収益及び工事原価を認識する工事完成基準が適用され、この点においてIAS第11号との差異が生じています。

5.開示

企業は、次の事項を開示する必要があります。

(1)会計期間の収益として認識された工事契約収益の額
(2)工事契約収益を算定するために用いた方法
(3)進行中の工事契約の進捗度を決定するために用いられた方法

また、報告期間末日時点で進行中の工事契約については次の事項を開示する必要があります。

(1)前受金の額
(2)保留金の額

ここで、保留金とは、中間請求のうち、その支払に対し、契約で定めた条件が満たされるまで、又は欠陥が修正されるまでは支払われない額をいいます。




 
執筆者:関和輝
 


 

国際監査基準のクラリティ版について解説(第6回)
「財務諸表監査における不正」「財務諸表監査における法令の検討」について

1.基準の概要

今回は、監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」と250「財務諸表監査における法令の検討」について解説します。

クラリティ版の国際監査基準(ISA)に対応した新しい日本の監査基準39本が公表されており、このうち6本はすでに今年度から適用されています。残りのほとんどは来年度(2013年3月決算に係る監査)から適用されますが、今回はその中から2つの監査基準を紹介します。

1つは財務諸表の不正について規定した「財務諸表監査における不正」、もう1つは企業の違法行為の識別等ついて規定した「財務諸表監査における法令の検討」です。

これらは、ISA240「財務諸表の監査における不正に関する監査人の責任」、ISA250「財務諸表の監査における法令および規制の考慮」に対応しています。

2.財務諸表における不正

監査基準「財務諸表監査における不正」では、財務諸表の不正について、経営者や監査人の責任と、監査における要求事項等を規定しています。


(1) 経営者と監査人の責任

財務諸表の不正を防止し発見する基本的な責任は、経営者と、取締役会及び監査役等にあります。そのため経営者は、取締役会及び監査役等の監視のもとで不正の防止を行うとともに、不正の発見と処罰の可能性を社内に示し、不正の抑止について強調することが重要です。

これに対して、監査人は、財務諸表の監査において、不正によるか誤謬によるかを問わず、全体として財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得る責任があります。そのため監査人は、経営者が内部統制を無効にするリスクを考慮しながら、懐疑心を持って監査を行う責任があります。


(2) 不正による重要な虚偽表示リスクの識別

監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクを識別するため、以下の手続を実施しなければなりません。


表1:リスク評価手続
No

種類

内容

1 経営者及びその他の企業構成員に対する質問
  • 経営者に対して、不正リスクについての経営者の評価等を質問する
  • 内部監査担当者に、内部監査の内容について質問する
2 取締役及び監査役等に対する手続
  • 取締役会及び監査役等による内部統制への監視について理解する
  • 監査役等にその企業に影響を及ぼす不正を把握しているか質問する
3 識別した通例でない又は予期せぬ関係の検討・評価
  • 分析的手続により識別した、通例でない又は予期せぬ関係が、不正による重要な虚偽表示リスクを示す可能性があるか評価する
4 その他の情報の検討・評価
  • 監査人は、自ら入手したその他の情報が不正による重要な虚偽表示リスクを示しているか検討する
5 不正リスク要因の評価
  • 実施したその他のリスク評価手続とこれに関連する活動により入手した情報が、不正リスク要因の存在を示しているかどうかを評価する。

(3) 評価した不正による重要な虚偽表示リスクへの対応

監査人は、評価した不正による重要な虚偽表示リスクに対して、以下のような対応を行います。

1. 財務諸表レベルでの全般的な対応
  • 経験の豊富なメンバーやITの専門家などを監査チームに配置する。
  • 企業が採用している会計方針の選択と適用について、不正な財務報告の可能性を示していないか検討する。
  • 監査手続の種類、適用時期および適用範囲の選択において、企業が想定しない要素を組み込んだ監査手続を 実施する。
2. 財務諸表項目レベルでのリスク対応手続
  • より証明力が強く適合性の高い監査証拠を入手するために、実施する監査手続の種類を変更する。
  • より期末日近くに実証手続を実施するなど、監査手続の適用時期を変更する。
  • 実施する監査手続の範囲を変更する。例えば、サンプル数の増加、コンピュータ支援監査技法の使用などを検討する。
3. 経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続
  • 記録された仕訳入力や財務諸表を作成する過程における修正についての適切性を検証する。
  • 経営者の偏向が会計上の見積りに存在するかどうかを検討する。
  • 重要な取引や通例でないと判断される重要な取引について、取引の事業上の合理性などを評価する。

なお、監査人は、上記の手続等により不正を識別した場合には、監査契約の継続の可否の検討、監査役や規制当局への報告等の対応をとることになります。

3.財務諸表監査における法令の検討

監査基準「財務諸表監査における法令の検討」では、企業の法令遵守について、経営者や監査人の責任と、監査における要求事項について規定しています。


(1) 経営者と監査人の責任

経営者は、取締役会及び監査役等による監視のもとで、財務諸表の金額又は開示に関する法令を遵守することを含め、法令に従った業務の実施を確保する責任があります。

これに対して、監査人は、不正によるか誤謬によるかを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得る責任があります。ただし、監査人は、企業の違法行為の防止について責任は負わず、また違法行為のすべてを発見することを期待されているわけではありません。


(2) 監査人の考慮事項

監査人は、企業及び企業環境について理解する際に、以下の事項を理解しなければなりません。

  1. 企業及び企業が属する産業に対して適用される法令。
  2. 企業が当該法令をどのように遵守しているか。

また、監査人は、企業が、財務諸表の重要な金額及び開示に影響を及ぼす法令を遵守していることについて、十分かつ適切な監査証拠を入手する必要があります。そのため監査人は以下の監査手続を実施します。

  1. 企業が法令を遵守しているかどうかについて、経営者及び監査役等へ質問をする。
  2. 関連する許認可等を行う規制当局とやりとりした文書がある場合には、それを閲覧する。

 

(3) 識別された違法行為又はその疑いがある場合の監査手続

監査人は、企業の違法行為又はその疑いに関する情報に気付いた場合、以下の手続を実施します。

  1. 行為の性質及び当該行為が発生した状況について理解する。
  2. 財務諸表に及ぼす影響を評価するために詳細な情報を入手する。

監査人は、違法行為が疑われる場合、当該事項について経営者、及び必要に応じて監査役等と協議しなければなりません。監査人は、企業が法令を遵守していることを裏付ける十分な情報を経営者及び監査役等から入手できない場合は、法律専門家に助言を求めることも検討します。

また、監査人は、違法行為の疑いに関して十分な情報を入手できない場合、監査意見への影響を評価するとともに、監査役等に報告を行います。

4.最後に

監査人は、企業の不正又は違法行為のすべてを防止又は発見する責任があるわけではありません。しかし、上記の監査基準では、財務諸表の重要な虚偽の表示の原因となる不正又は違法行為に対する監査人の対応を明確に定めており、さらにそれに応じた監査手続の内容も規定されています。

なお、上記の監査基準はクラリティ版の国際監査基準に対応して改訂されたものですが、実質的な内容は従来の日本の監査基準と変わるところはないと考えられます。

 
参考文献

2009、IAASB、ISA240 The Auditor’s Responsibilities Relating to Fraud in an Audit of Financial Statements
2009、IAASB、ISA250 Consideration of Laws and Regulations in an Audit of Financial Statements
2010、内藤文雄・松本祥尚・林隆敏編著、「国際監査基準の完全解説」、中央経済社
2011、日本公認会計士協会資料「監査基準委員会報告書の新起草方針の概要」
2011、日本公認会計士協会、監査基準委員会報告書第240号「財務諸表監査における不正」
2011、日本公認会計士協会、第250号「財務諸表監査における法令の検討」

日本公認会計士協会ホームページ http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/index.html
 
執筆者:吉田隆伸
 

編集後記
 
 

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

皆様年末年始はいかが過ごされましたでしょうか。年末年始と一言でいっても各地域、各家によってそれぞれの祝い方があるものです。

私の地元である長野では大晦日を「お年取り」と呼び家族全員でご馳走を食べるという習慣があります。一説によると、誕生日ではなくこのお年取りの日に1歳年をとるのだとも言われているそうです。

そして、このお年取りに欠かせない食材がお年取り魚とも呼ばれている鰤です。このお年取り魚も各地で様々なようで、鮭であったり鯉であったり、その土地に由縁のある魚が食べられるそうです。(お年取り魚など全く知らないという地域も多いですが。)鰤といえば出世魚の代名詞。私も鰤にあやかって出世できるよう今年も仕事に励もうと思います。

では、本年も皆様にとりまして飛躍の年になりますよう心からお祈り申し上げます。

 
執筆者:山口 亮
 


       
 
 

  明誠ニュースレター vol.15
2012年1月16日発行
発行責任者:武田剛
編集スタッフ:梅原剛、清水真太郎、大森麻利子、村田博明、山口 亮
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