明誠グループニュースレター

情報フラッシュ [ 連載記事 ]
IFRS(国際財務報告基準)第18回 IAS第33号「1株当たり利益」
国際監査基準のクラリティ版について解説(第10回)「監査証拠」「特定項目の監査証拠」について
[ トピック解説 ]
減価償却に関する当面の監査上の取扱いの改正について
監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の改正について
プロ向け市場「TOKYO AIM取引所」の東京証券取引所への統合について

情報フラッシュ

 
発表日時 表題
平成24年4月11日 日本公認会計士協会が「監査報告書の文例」の改正について」を公表しました。
平成24年4月12日 日本公認会計士協会が「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱いの改正について」(公開草案)を公表しました。
平成24年4月16日 国税庁が復興特別所得税関係(源泉徴収関係)に係るQ&Aを公表しました。
平成24年4月20日 日本監査役協会が「法令違反等事実又は不正の行為等が発覚した場合の監査役等の対応について」を公表しました。
平成24年4月24日 企業会計基準委員会が「包括利益の表示に関する会計基準(案)」を公表しました。

トピック解説

 

 

減価償却に関する当面の監査上の取扱いの改正について

1.はじめに

日本公認会計士協会(監査・保証実務委員会)は、平成24年2月14日に監査・保証実務委員会実務指針第81号「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」(以下「実務指針81号」という。)の改正を公表しました。

「実務指針81号」では、「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第114号。以下「平成23年度税制改正」という)による法人税法の改正において、減価償却資産に関わる定率法の見直しが行われたことに対応して、その監査上の取扱いが示されています。

2.平成23年税制改正の概要

平成23年度税制改正において減価償却方法が見直され、平成24年4月1日以後取得する減価償却資産の定率法の償却率は、定額法の償却率(1/耐用年数)を2.5倍した数から、定額法の償却率(1/耐用年数)を2.0倍した数に改正されました。

また、現行の償却率による定率法を採用している減価償却資産については、平成23年4月1日以後最初に終了する事業年度の申告期限までに届出をすることにより、その償却率を改正後の償却率に変更することができることとされました(「法人税法施行令の一部を改正する政令」(平成23 年政令第379 号)附則第3条第3項)。

3.監査上の取扱いについて

[1].減価償却方法に係る基本的な考え方

法人税法上の減価償却計算に係る規定は、各事業年度の課税所得の計算上、損金算入できる金額の限度額を計算することを目的にしたものであり、会計処理の上で法人税法に基づく減価償却計算が強制適用されるものではありません。このため、平成23年度税制改正後であっても、会計上は従来の減価償却方法を引き続き採用することも容認されます。

したがって、会計上の減価償却方法に関しては、平成19年度税制改正前の旧定額法又は旧定率法、平成19年度税制改正後の定額法又は定率法(250%定率法)、平成23年度税制改正後の定率法(200%定率法)の5通りの選択肢があることになります。

そこで、監査上は平成23年度税制改正に伴って減価償却方法の変更を行う場合に留意が必要となります。すなわち、減価償却方法は正当な理由により変更を行う場合を除き、毎期継続して適用する必要があることから、会計方針の変更の正当性の判断を行う上で、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」に該当するか否かがポイントとなります。

「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」に該当する場合には、正当な理由による会計方針の変更として取り扱われますが、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」に該当しない場合(自発的に行う会計方針の変更の場合)には、当該会計方針の変更が正当な理由によるものかについて、監査・保証実務委員会実務指針第78 号「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」に従って判断する必要があります。この際、単に法人税法の改正を理由とするだけでは正当な理由に該当しないので、変更理由の合理性(変更の適時性等)に留意する必要があります。

[2].新規取得資産についての取扱い

(1)法令等の改正に伴う変更に準じた会計方針の変更

従来、法人税法に規定する普通償却限度額を正規の減価償却費として処理している企業において、既存資産のうち平成19 年3月31 日以前に取得した減価償却資産がある場合に当該資産に旧定率法を採用し、かつ平成19 年4月1日以後取得した減価償却資産がある場合に当該資産に250%定率法を採用していたときに、新規取得資産について200%定率法を採用する場合には、法令等の改正に伴う変更に準じた正当な理由による会計方針の変更として取り扱うこととされています。これは、同一種類で同一用途の資産について、類似の減価償却方法を採用するものと認められるためです。

なお、平成23 年度税制改正では、250%定率法を採用している企業が、平成24 年4月1 日前に開始し、かつ、同日以後に終了する事業年度において、同日からその事業年度終了の日までの期間内に減価償却資産を取得した場合には、現行の償却率による定率法(250%定率法)により償却することができる経過措置が認められています(「法人税法施行令の一部を改正する政令」(平成23 年政令第379 号)附則第3条第2項)。当該経過措置を適用した場合、上記の取扱いは、当該事業年度の翌年度の期首以後取得する減価償却資産について適用されることに留意が必要です。

(2)法令等の改正に伴う変更(準じたものを含む。)以外の会計方針の変更

上記で示した法令等の改正に伴う変更に準じた正当な理由による会計方針の変更に該当する場合を除いて、減価償却方法を変更するときには、自発的に会計方針の変更を行うものとして取り扱うことになります。

[3].既存資産についての取扱い

平成23 年度税制改正において、既存資産の減価償却方法は、原則として、平成23 年度税制改正前の取扱いが適用されるが、企業の選択により、一定の届出を行うことにより、250%定率法から200%定率法へ変更することができることとされました。しかしながら、上記の250%定率法から200%定率法への既存資産の減価償却方法の変更は、企業の選択により決定できるものであることから、既存資産について減価償却方法を変更する場合には、会計上、法令等の改正に伴う変更に準じた会計方針の変更とは認められず、自発的に会計方針の変更を行うものとして取り扱うことになります。

[4].適用時期等

 「実務指針81号」は、平成24年4月1日以後終了する事業年度に係る監査から適用することとされています。なお、減価償却方法の変更については、会計方針の変更に該当するものの、「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合」として、遡及適用を行わないことに留意する必要があります。

また、減価償却システムの変更に時間を要するなどの理由により、平成24年4月1日以後終了する事業年度に係る四半期会計期間又は中間会計期間において、200%定率法による減価償却計算を開始することが困難な場合には、いわゆる四半期・中間・年度の首尾一貫性が保持されていないため、過年度遡及会計基準、過年度遡及適用指針、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」及び監査・保証実務委員会実務指針第84号「中間財務諸表と年度財務諸表との会計処理の首尾一貫性」に従い必要な会計処理及び注記を行うことが求められます。

4.おわりに

平成19年度税制改正、平成23年度税制改正と減価償却制度に関する改正が立て続けに行われた結果、減価償却方法が複数並置され固定資産の管理は複雑になっていると思われます。平成23年度改正の適用前に、固定資産の管理体制について再度検討を行うことが求められます。

 
執筆者:松浦政文
 

 

監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の改正について

1.はじめに

日本公認会計士協会(監査・保証実務委員会)から2012年4月12日付で、「監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の改正について(公開草案)」(以下、公開草案という)が公表されました。公開草案による主な改正点について解説していきます。

2.改正の概要

[1]内部統制監査におけるコミュニケーション

「財務諸表監査と内部統制監査の関係」において「内部統制監査におけるコミュニケーション」の項目が新設され、内部統制監査において監査役等とコミュニケーションをとる際の留意事項が2点挙げられています。

(1)監査役等とのコミュニケーション

内部統制監査を含めた一体監査における監査役等とのコミュニケーションについては、財務諸表監査における要求事項に加えて、以下の事項を含めたコミュニケーションをとる必要があります。

イ 内部統制監査に関連する監査人の責任
ロ 計画した監査の範囲とその実施時期の概要
ハ 監査上の重要な発見事項
ニ 監査人の独立性
(2)コミュニケーション・プロセス

監査人は、想定されるコミュニケーションの手段、実施時期及び内容について、監査役とコミュニケーションを行わなければなりません。さらに、監査人は、職業的専門家としての判断により、口頭によるコミュニケーションが適切ではないと考える場合、監査上の重要な発見事項について、監査役と書面によりコミュニケーションを行わなければならないとされています。したがって、監査人は、監査の過程で識別した内部統制の重要な不備を、適時に、書面により監査役等に報告しなければなりません。


[2] 重要な事業拠点の選定

「業務プロセスに係る内部統制の評価範囲の検討」において、重要な事業拠点の選定に関して以下の説明が追加されています。

本報告における「重要な事業拠点」と監査基準委員会報告書600「グループ監査」(以下、監査基準委員会報告書600)第8項(13)@における個別の財務的重要性を有する重要な構成単位とは、その選定を主体的に行うのが経営者であるか監査人であるかといった相違点があり、その選定方法も異なる場合があるため、両者は必ずしも一致するものではありません。ただし、両者は重要な虚偽表示のリスクを潜在的に有するという点では共通するため、監査人は一体監査の効果的かつ効率的な実施の観点から、両者の関係には留意が必要になるとしています。


[3]全社的な内部統制の評価の検討方法

全社的な内部統制の評価の位置付けについて以下の説明が追加されています。

全社的な内部統制とは、企業集団全体に関わり連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制とされています。ただし、全社的な内部統制は、企業集団内の子会社や事業部等に独特の歴史、慣習等が認められ、当該子会社や事業部等を対象とする内部統制を別途評価することが適切と判断される場合があります。すなわち、本来的には全社的な内部統制及び全社的な観点で評価することが適切と考えられる決算・財務報告プロセスは、企業集団全体に適用される内部統制であるため、監査基準委員会報告書600第8号に規定するグループ全体統制と同一概念であるものの、企業集団を構成する一部で行われている統制環境やリスク評価、情報と伝達、モニタリング等に属する内部統制も全社的な内部統制に含まれる場合があります。したがって、全社的な内部統制及び全社的な観点で評価することが適切と考えられる決算・財務報告プロセスのうち、企業集団全体に適用される内部統制が、グループ全体統制に該当する関係にあると考えられます。


[4]他の監査人の等の利用

内部統制監査における他の監査人の利用においては、監査基準委員会報告書600を踏まえ、利用の際に次のような事項に留意する必要があるとしています。

イ 他の監査人が、内部統制監査に関連する職業倫理に関する規定を理解し遵守しているか。特に独立性に問題がないか。
ロ 他の監査人が、職業的専門家としての能力を有しているか。
ハ 監査人が、十分かつ適切な監査証拠を入手するに当たり、必要な程度まで他の監査人の作業に関与することができるか。
ニ 他の監査人が、当該他の監査人を適切に監督する規制環境の下で業務を行っているか。

[5]内部統制監査において入手すべき経営者による確認書
(1)提供する情報

内部統制監査において入手すべき経営者による確認書に「提供する情報」の項目を設け、監査人に提供される情報の網羅性を確保するため、以下を記載する必要があります。

イ 内部統制監査の実施に必要なすべての資料を監査人に提供した旨
ロ 内部統制評価の過程で特定した財務報告に係る内部統制の整備及び運用上の不備のうち、内部統制評価の実施基準3.(4)Cに定める開示すべき重要な不備については、期中で是正された場合は是正措置の内容とともに、すべて監査人に開示した旨
(2)監査範囲の制約

監査人が確認を要請した事項の全部又は一部について経営者から確認を得られない場合、監査人は以下の事項を実施しなければなりません。

イ 当該事項について経営者と協議すること
ロ 経営者の誠実性を再評価し、口頭又は書面による陳述の信頼性及び監査証拠全体の証明力に及ぼす影響を評価すること
ハ 次の事項を考慮し、内部統制監査の監査意見への影響を判断することを含め、適切な措置を講じること

監査人は、上記の実施の結果、経営者の誠実性について深刻な疑義があり、経営者の責任に関する確認事項に信頼性がないと判断した場合には、意見を表明してはならないとされています。また、監査人が確認を要請した事項の全部又は一部について経営者から確認を得られないことは監査範囲の制約となるとし、公開草案では、「経営者が確認を拒否した事項」から「経営者から確認が得られない事項」へと文言が変更されています。

3.終わりに

以上、財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱いの改正について解説しました。当該公開草案における改正のポイントは、[5]内部統制監査において入手すべき経営者による確認書の記載にあるといえます。

 
執筆者:佐藤沙織
 

 

プロ向け市場「TOKYO AIM取引所」の東京証券取引所への統合について

1.TOKYO AIM取引所の東京証券取引所への統合

TOKYO AIM取引所は、2009年6月、世界最大の新興企業向け証券市場ロンドンAIM をモデルに、東京証券取引所51%、ロンドン証券取引所49%の合弁事業として、東京証券取引所から独立した市場としてスタートしました。2008年12月金融商品取引法改正によって誕生した、日本で初めてのプロ向け国際市場です。TOKYO AIM取引所には、株式市場の「TOKYO AIM」と債券市場の「TOKYO PRO-BOND Market」の2市場があります。

東証グループは、2013年1月1日を目処に大証と合併することを発表しました。この合併により、世界第3位、アジア最大市場(2011年9月末時点)の東証グループに、大証の強みであるデリバティブ市場が加わり、さらなる国際的なプレゼンス向上が期待されます。このような国際化に向けた市場統合の流れの中、TOKYO AIM取引所は、ロンドン証券取引所との合弁を解消し、2012年7月1日を目途に東証に吸収合併されるになりました。なお、運営については、原則現行のまま引き継ぐとしています。以下、株式市場の「TOKYO AIM」と債券市場の「TOKYO PRO-BOND Market」の概要を顧みながら、今後の展望を考えてみたいと思います。

2.株式市場としての「TOKYO AIM」

(1)特徴
1) 国際市場を前提とした制度設計
a. 英文による申請、開示が可能
海外企業の上場を考慮し、申請、開示を英語で行うことができます。規程類も英訳されています。
b. IFRSなどの会計基準の採用が可能
会計基準は、日本基準の他、米国基準、IFRS、その他J-NOMAD等が認めた会計基準であれば採用可能とし、海外企業への対応を考慮した内容となっています。
2) 規制の柔軟性
a. 上場基準に数値基準が無くJ-NOMADの実質的判断による
上場の判断は、取引所が認定したJ-NOMAD(Japan Nominated Advisor)が行います。様々な成長段階にある国々の企業に対して、先進国による画一的な数値基準を当てはめるのではなく、それぞれの状況を考慮したJ-NOMADによる実質的な判断で上場が可能となります。
b. 監査証明は直前年度のみ
上場企業に対するタイムリーな成長資金の供給を重視し、監査証明は、直前期のみとし、他市場に比べ、短期上場が可能です。
c. 内部統制報告書、四半期開示は任意
投資家をプロ投資家に限定することで、自己責任投資が前提とされ、規制がより柔軟な市場となっています。
d. プリンシプルベースの考え方
プロ市場に相応しい市場参加者による自律的な市場秩序の維持を図るため、規程には細かな具体的な条項が少なく、運営にあたっては、各条項の趣旨に沿って、個別のケースに応じた判断を行う方法がとられています。これにより、国際的な多様な案件に対して、実態に合わせた柔軟な運用が可能となります。
(2)上場事例

2011年7月15日、第1号として、医薬品開発のメビオファームが上場しました。TOKYO AIMでは、ノンファイナンスでの上場も可能で、メビオファームは、資金調達を行わない方法で上場しました。上場後は、シンガポール、香港、上海と積極的にIR活動を行い、2012年2月には、スリランカ最大の病院をグループに持つ現地大手企業ナワロカ社との業務提携に成功し、合弁で現地法人を設立しました。この業務提携には、日本での上場会社であるという信用力が大きく貢献したといわれています。

今年5月、第2号として、冷凍菓子製造販売の五洋食品産業の上場が計画されています。上場時、7,650万円の資金調達と2,000万円の売り出しが予定されています。

(3)今後への期待
a. 上場が発展のスタートへ
TOKYO AIMは、企業の成長性に焦点を当てた中長期的な投資が期待される市場です。したがって、上場後、市場で、事業活動がどう評価されるかが重要になります。最近では、海外進出を目指す国内企業が多く、そのような企業は、メビオファームのように、海外での信用力向上のために早期上場を希望することが想定されます。上記のケースでは、むしろ上場後の事業戦略に重点が置かれ、資金調達については、上場後の事業の進捗に応じて、段階的に資金調達を行うことも考えられます。今後、上場が発展のスタートといった案件が増え、TOKYO AIMが、海外展開を目指す国内企業の登竜門となっていくことが期待されます。
b. 取引参加者の拡大
TOKYO AIMの課題の一つに、取引する投資家層の拡大があります。取引が可能な投資家がプロに限定される一方で、TOKYO AIMの取引参加者である証券会社は、現状12社に留まっています。証券市場を活発化するには、取引参加者の拡大も必要だと考えられます。東証との合併により、取引参加者が東証取引会員96社全体に広がり、TOKYO AIMが活性化することが期待されます。

3.債券市場としての「TOKYO PRO-BOND Market」

(1)特徴
2011年5月、TOKYO AIM取引所の中に、国際債券市場として誕生しました。日本国内に、ユーロ市場と比肩する債券市場を構築し、アジア中核市場に発展させることを目的にしています。
1) 国際市場を前提とした制度設計
a. 英文による申請、開示が可能(TOKYO AIMと同様)
b. IFRSなどの会計基準の採用が可能(TOKYO AIMと同様)
2) 規制の柔軟性
a. 簡易な上場基準

上場にあたって必要な条件は、次の2つのみです。

(イ)格付けの取得(格付けランクの制約はありません)
(ロ)TOKYO PRO-BOND Marketが認めた登録リストにある証券会社を主幹事として確保すること
(参考)東証の債券の上場基準 国内債券の場合:発行会社が上場会社であり、未償還額面総額10億円以上、消化件数1,000件以上などの形式基準を満たすこと
外国債券の場合:発行会社が上場会社であるか、又は、時価総額、事業経過年数、純資産、利益額等の形式基準を満し、東証上場審査に準じた審査を通ること

TOKYO PRO-BOND Marketでは、東証の上場基準のように、厳しい基準は要求されないので、幅広く柔軟に多様な案件が取り扱えます。

b. 資金ニーズや市場環境に応じて機動的に起債が行えるプログラム上場が可能

プログラム上場とは、上場時に、起債可能枠を決め、基礎的な情報や財務情報を事前登録し、その後、起債予定範囲内で随時債券を発行することが出来る仕組みです。ロンドンなど海外のユーロ市場では、一般的な社債発行形態で、この仕組みを使うことで、個別の社債発行手続きを迅速化し、発行コストの削減が可能になります。

c. プリンシプルベースの考え方(TOKYO AIMと同様)
(2)上場事例

第1号として、オランダのING銀行が、2012年3月、総額2千億円のプログラム上場登録を行い、2012年4月16日、507億円の資金調達を果たしました。欧州債務問題の経済状況の中で、資金調達先の多様化を図るため、日本で起債したと言われています。

a. 発行会社 ING BANK N.V(オランダ)
b. プログラム上場登録 2012年3月30日
c. 発行期間 2012年3月30日から2013年3月29日
d. 発行枠 2,000億円
e. 第1回社債発行日 2012年4月16日
f. 第1回資金調達額 507億円
g. 第1回引受主幹事団 バークレイズ・キャピタル・ジャパン、野村証券、SMBC日興証券、大和証券、三菱UFJモルガン・スタンレ証券

(3)今後への期待

今回のINGの例のように、海外企業の資金調達先の多様化の一環として、日本が注目されることが期待されます。特に、最近では、人民元の国際化の流れが強く、元建て社債の発行の動きも見られます。

これまで、中国は、海外輸出力を維持するため、管理フロート制のもと、元売り、ドル買い介入を行い、元高を抑制し、その結果、外貨準備高世界第1位になりました。その一方で、日本の増加する中国との貿易決済には、専ら基軸通貨である米国ドルが使われ、コストをかけて、米国ドルを介して行われています。この問題を解決するため、2011年12月25日、日中首脳会談において、円・人民元の直接交換市場の発展支援が合意され、「日中金融市場発展のための合同作業部会」が設置されるという報道がなされました。

人民元は一定の範囲内で管理される管理フロート制のため、実質的な元レートは、現状よりかなり元高と予想されています。仮に、円と元が直接交換可能となった場合、元建て債券発行後、元高に為替レートが修正されると、円換算した貸付金額より償還時の円換算金額の方が多くなり、為替変動の恩恵を受けます。しかし、現状、円と元の交換は、米国ドルを介して行われていますので、米国ドルの為替変動の影響を受け、元高になったからといって、必ずしも手取り金が増えるとは限りません。もし、円と人民元の直接交換市場が創設されれば、元高を見込んだ元建て債券の発行も増えるかもしれません。

このような流れの中、HSBCは、2012年4月18日、中国、香港以外で初めて、ロンドンで元建て社債20億元(約250億円)を発行し、ロンドン証券取引所に上場すると発表しました。日本においても、2011年4月、マネックス証券が、Orixが香港で発行した元建て社債を、日本で初めて個人向けに販売しました。

今後の成り行きに注目したいと思います。

 
参考文献
東京証券取引所 有価証券上場規程、TOKYO AIM上場規程、TOKYO PRO-BOND Market上場規程
日本銀行・講演記者会見資料、マネックスグループ株式会社・プレスリリース及びWEBサイト、
メビオファーム株式会社・プレスリリース及びWEBサイト、五洋食品株式会社・特定証券情報、
ING Bank N.V.・プログラム情報、特定証券情報、
株式会社TOKYO AIM取引所・プレスリリース及びWEBサイト、
株式会社東京証券取引所グループ・プレスリリース、株式会社東京証券取引所WEBサイト
 
執筆者:安田秀志
 

連載記事

 
 

IFRS(国際財務報告基準)第18回 IAS第33号「1株当たり利益」

1.はじめに

今回は、IAS第33号「1株当たり利益」(以下、IAS第33号という。)について紹介します。

2.目的

IAS第33号の目的は、同一の報告期間における異なる企業間の業績比較及び同一企業の期間ごとの業績比較を向上させるために、1株当たり利益の算定及び表示に関する原則を定めることにあります。

3.基本的1株当たり利益の計算

基本的1株当たり利益は、親会社の普通株主に帰属する利益を当期中の普通株式の加重平均株式数で除して計算されます。

基本的1株当たり利益を計算する上で、以下の事項を考慮する必要があります。

【1】分子として用いられる親会社の普通株主による損益は、優先株式の配当等を考慮する。
【2】分母として用いられる当会計年度中及び表示対象期間となっているすべての期間に対する普通株式の加重平均株式数は、株式分割等の資金の増減を伴わない普通株式数の変動を調整する。

なお、普通株式の株式数が、株式分割等により変動した場合には、表示されているすべての会計年度の普通的及び後述する希薄化後1株当たりの利益の計算を遡及して修正しなければなりません。

4.希薄化後1株当たり利益の計算

企業は親会社の普通株主に帰属する純損益について、希薄化後1株当たり利益を計算しなければなりません。ここで、希薄化とは、転換型金融商品の転換、オプションやワラントの行使、又は特定の条件の充足による普通株式の発行という仮定により生じる、1株当たり利益又は1株当たり損失の変動をいいます。

希薄化後1株当たり利益は、希薄化効果を有する潜在的普通株式の影響について、基本的1株当たり利益の計算の分母と分子をそれぞれ調整することで計算を行います。

希薄化後1株当たり利益を計算する上で、以下の事項を考慮する必要があります。

【1】分子として用いられる親会社の普通株主による損益は、基本的1株当たり利益の計算で用いられた金額に、希薄化効果のある潜在的普通株式に係る配当や利息等を考慮する。
【2】分母として用いられる普通株式の加重平均株式数に加えて、すべての希薄化効果のある潜在的普通株式が普通株式に転換された場合の発行済普通株式加重平均株式数を考慮する必要がある。また、計算上は、希薄化効果のある潜在的普通株式は期首に普通株式に転換されたとみなし、期中に発行されたものは、発行時に転換されたとみなす。

5.表示

基本的及び希薄化後1株当たり利益は、包括利益計算書に、当期純損益の分配に関して異なる権利を有する普通株式の種類ごとに表示しなければなりません。非継続企業を記載している企業は、包括利益計算書又は注記に、非継続事業に係る基本的及び希薄化後の1株当たり金額を開示しなければなりません。

また、基本的及び希薄化後の1株当たり利益の金額がマイナスの場合であっても表示する必要があります。なお、我が国の会計基準においては、基本的1株当たり利益がマイナスの場合には、希薄化後1株当たり利益の開示は要しません。

6.注記における開示事項

IAS第33号は、以下の事項を開示することを要求しています。

【1】基本及び希薄化後1株当たりの利益の計算上、分子として使用した金額及び、その金額から当期の親会社に帰属する純損益への調整。
【2】基本及び希薄化後1株当たりの利益の計算上、分母として使用した普通株式の加重平均株式数と、それら分母として用いられた株式数相互間の調整。
【3】将来、基本的1株当たり利益を希薄化させる可能性があるが、表示期間については、逆希薄化効果を有するために希薄化後1株当たり利益の計算に含まれなかった金融商品。
【4】期末日後に発生した事象が、仮に期末日以前に発生していたとしたら期末日の発行済株式数または、潜在的普通株式数を大きく変動させていたであろう普通株式又は潜在的普通株式の取引に関する詳細。
 
執筆者:関和輝
 


 

国際監査基準のクラリティ版について解説(第10回)
「監査証拠」「特定項目の監査証拠」について

1.基準の概要

今回は、監査基準委員会報告書500「監査証拠」と501「特定項目の監査証拠」について解説します。

クラリティ版の国際監査基準(ISA)に対応した新しい監査基準の多くが2013年3月決算に係る監査から適用されていますが、今回はその中から2つの監査基準を紹介します。

1つは監査において入手すべき監査証拠などについて規定した「監査証拠」、もう1つは、棚卸資産など特定の項目についての監査証拠について規定した「特定項目の監査証拠」です。

これらは、それぞれISA500「監査証拠」、ISA501「監査証拠−特定項目についての追加的考慮事項」に対応しています。

2.「監査証拠」

本基準では、監査人が結論を導き、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できるように、監査手続を立案し実施することを求めています。そのために、監査人に対する要求事項が定められています。


(1) 監査証拠の入手

監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するために、個々の状況において適切な監査手続を立案し実施しなければなりません。監査人は、監査手続を立案し実施する場合には、監査証拠として利用する情報の適合性と信頼性を考慮しなければなりません。

 

表1:必要な監査証拠を入手するための手続
No

項 目

内 容

1 閲覧 紙媒体、電子媒体又はその他の媒体による企業内外の記録や文書を確かめる手続。文書には、株券や債券など、資産の実在性を直接に示す監査証拠を提供するものがある。
2 実査 資産の現物を実際に確かめる監査手続。資産の実在性に関する証明力のある監査証拠を入手できる。
3 観察 他の者が実施するプロセスや手続を確かめる手続。観察により、特定のプロセス又は手続の実施に関する監査証拠を入手できる。
4 確認 監査人が確認先である第三者から文書による回答を直接入手する監査手続。勘定残高とその明細、契約条件などの確認を行うことができる。
5 再計算 記録や文書の計算の正確性を監査人自らが計算し確かめる監査手続。
6 再実施 企業が内部統制の一環として実施している手続又は内部統制を監査人が自ら実施することによって確かめる手続。
7 分析的手続 監査人が財務データ相互間又は財務データ以外のデータと財務データとの間に存在すると推定される関係を分析・検討することによって、財務情報を評価する監査手続。
8 質問 監査人が財務又は財務以外の分野に精通している企業内外の関係者に情報を求める監査手続。質問は、質問以外の監査手続と組み合わせて監査の全過程で利用される。

(2) 専門家による情報

監査人は、監査証拠として利用する情報が、経営者の利用する弁護士などの専門家により作成されている場合には、専門家の業務の重要性を考慮して、必要な範囲で以下の手続を実施しなければなりません。

(i) 専門家の適性、能力及び客観性を評価すること
(ii)専門家の業務を理解すること
(iii)専門家の業務について、監査証拠としての適切性を関連する事項に照らして評価すること

(3) 情報の信頼性の評価

監査人は、企業が作成した情報を利用する場合には、当該情報が監査人の目的に照らして十分に信頼性を有しているかどうかを評価しなければなりません。これには、個々の状況において必要な以下の事項が含まれます。

(i)企業が作成した情報の正確性及び網羅性に関する監査証拠を入手すること
(ii)企業が作成した情報が監査人の目的に照らして十分に正確かつ詳細であるかどうかを評価すること

(4) 監査証拠における矛盾又は証明力に関する疑義

監査人は、以下の場合には、問題を解消するためにどのような監査手続の変更又は追加が必要であるかを判断し、その影響を考慮しなければなりません。

(i)ある情報源から入手した監査証拠が他の情報源から入手した監査証拠と矛盾する場合
(ii)監査人が監査証拠として利用する情報の信頼性に関して疑義を抱く場合

3.「特定項目の監査証拠」

本基準は、(1) 棚卸資産の実在性と状態、(2) 企業が当事者となっている訴訟事件等の網羅性、(3) 適用される財務報告の枠組みに準拠したセグメント情報について、監査証拠を入手するために実施すべき手続等について規定しています。


表2:監査証拠についての要求事項
No 項目

要求事項

1 棚卸資産
  • 実地棚卸の立会
  • 企業の最終的な在庫記録の確認
  • 重要な棚卸資産を第三者が保管している場合には、その第三者に対する確認等
2 訴訟事件等
  • 経営者等への質問
  • 取締役会の議事録の閲覧、必要に応じて監査役等の議事録の閲覧、企業と顧問弁護士との間の文書の閲覧
  • 法務関連費用の検討
3 セグメント情報
  • セグメント情報を決定する際に経営者が用いた方法や手順を理解する
  • 分析的手続又はその他の監査手続を実施する

4.最後に

基準の改訂により、入手すべき監査証拠についての要求事項が明確にされました。ただし、これらは、現行報告書において記載されていた事項であるため、実務において既に考慮されている事項であり、これらの変更が実務に与える影響は小さいと考えられます。

 
参考文献

2010、内藤文雄・松本祥尚・林隆敏編著、「国際監査基準の完全解説」、中央経済社
2011、日本公認会計士協会資料「監査基準委員会報告書の新起草方針の概要」
2011、日本公認会計士協会、監査基準委員会報告書500「監査証拠」
2011、日本公認会計士協会、監査基準委員会報告書501「特定項目の監査証拠」

日本公認会計士協会ホームページ http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/index.html
 
執筆者:吉田隆伸
 


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2012年5月11日発行
発行責任者:武田剛 プロダクトマネジャー:村田博明
制作:株式会社ゼラス 佐々木景子
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