明誠グループニュースレター

情報フラッシュ [ 連載記事 ]
IFRS(国際財務報告基準)第25回 IAS第32号「金融商品:表示」
国際監査基準のクラリティ版について解説(第16回)「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示のリスクの識別と評価」について
[ トピック解説 ]
不正リスクとデータ監査
近年の不正事例について
不正に対応したデータ監査ツール(ActiveData)の利用について

情報フラッシュ

 
発表日時 表題
平成24年11月16日 日本税理士連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会は「中小企業の会計に関する指針」の改正に関する公開草案を公表しました。
平成24年11月16日 日本公認会計士協会は「「職業倫理に関する解釈指針」の改正について」を公表しました。

トピック解説

 

 

不正リスクとデータ監査

1.期待ギャップ縮小に向けての監査基準改訂

過去、粉飾事件が発覚するたびに、監査人の責任が問われてきました。最近では、オリンパスによる粉飾事件が発覚しており、この時も、投資家をはじめとする財務諸表利用者から、巨額の不正を長期に渡って見逃した監査人への批判がなされました。ここで、監査人への批判は、裏を返せば監査人への期待であると言えるでしょう。財務諸表利用者の監査の要求水準と、監査人の実施する監査の水準との乖離を、期待ギャップと言います。

オリンパスによる粉飾事件について、世間では監査人への批判が行われましたが、監査人側の認識ではどうでしょう。2012年4月25日の日本経済新聞にて、日本経済新聞が行った監査法人へのアンケートが公表されていますが、それによると、オリンパスの粉飾事件について「見抜くのは難しい」「見抜いても対応が難しい」との回答が全体の6割を超えたとのことです。ここに、期待ギャップの存在を伺うことができます。

過去から現在まで、期待ギャップ縮小に向けて、基準改訂が行われてきました。財務諸表利用者の監査人への期待に応えるべく、平成3年の監査基準改訂でリスク・アプローチの考え方の導入が図られました。リスク・アプローチに基づく監査の実施とは、監査人の権限や監査時間等の監査資源の制約がある中で、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるべく、有効かつ効率的な監査手続を計画し、実施することです。その後においても、平成14年の監査基準改訂では、不正の発見に対する姿勢の強化、リスク・アプローチの徹底が行われました。そして、平成17年の監査基準改訂では、経営者不正やその背景となる企業が置かれた状況に注目する、事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチの導入が行われました。このように、リスク・アプローチによる監査手続の増加・精緻化が図られることにより、監査人の実施する監査の水準を財務諸表利用者の監査の要求水準に近付け、期待ギャップの縮小を目指してきました。そして現在、平成24年9月25日の企業会計審議会監査部会(第29回)において「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」が公表され、より一層の監査手続の増加・精緻化が求められる傾向にあります。

2.不正リスクへの対応の形骸化

財務諸表の重要な虚偽の表示は、不正又は誤謬から生じます。不正とは、不正又は違法な利益を得るために、経営者、取締役等、監査役等、従業員又は第三者による他者を欺く意図的な行為です。一方、誤謬とは、財務諸表の意図的でない虚偽表示をいい、金額又は開示の脱漏を含みます。よって、有効な内部統制が構築され、運用されている場合には、誤謬の発生可能性は相当程度低いものとなるでしょう。そのため、財務諸表の重要な虚偽の表示は、不正に起因するものがほとんどです。さらに不正は、不正な財務報告(いわゆる粉飾)と資産の流用に分類されます。これらのうち、経営者による不正な財務報告は、会社の財務状況改善を目的とするため、財務諸表への影響が重大となりやすいです。さらに、経営者による不正な財務報告は、複雑なスキームを伴うことも多く、限られた監査資源の中では、監査人による不正発見は困難となるでしょう。

また、様々な粉飾事件の発覚により、隠ぺいを伴う不正は、年々、巧妙かつ複雑さを増しています。このような状況で、監査人は自らの責任を問われないよう、監査手続の増加と精緻化により、多岐にわたる監査リスクに対応していますが、この方法により隠ぺいを伴う不正に対し、「有効かつ効率的に監査を行う」というリスク・アプローチの目的を達成した監査を実施することができるのでしょうか。監査手続の増加と精緻化により、文章化することを数多く要求され、監査人は膨大な量の調書を作成することとなりますが、監査資源には限りがあることを考慮すれば、膨大な量の調書を作成することは、監査人が本質を見る余裕をなくし、形式的な監査を行う恐れがあります。

3.データ監査の提案

上述したことを踏まえ、期待ギャップを縮小すべく、巧妙かつ複雑さを増していく不正に対し、有効かつ効率的な監査を行うにはどのようなことが考えられるでしょうか。ここで、現状の監査資源を前提とし、不正リスクに対応する有効な監査手続として、リスク・アプローチに基づく監査にデータ監査をより広範に組み込む事が一つの答えだと考えています。監査人は、財務諸表の数値について意見を表明します。ならば、監査人が実施する監査手続は、数値が算定されるまでの過程としてのプロセスである内部統制の評価に重点を置くのではなく、数値の基礎となる膨大なデータの検証に重点を置くべきではないでしょうか。

データ監査とは、具体的にはコンピュータ利用監査技法 (CAAT:Computer Assisted Audit Techniques 以下、CAAT)です。CAATとは、監査のツールとして、コンピュータを利用して監査手続を実施するための技法であり、監査手続の有効性及び効率性を改善することが可能となります。CAATの利用については、大きく以下の三つの方法があります。

[1] 被監査会社の汎用コンピュータに監査人が作成した汎用監査プログラムをロードし、抽出、計算、比較、統計処理等を実施し出力する方法被監査会社の汎用コンピュータに監査人が作成した汎用監査プログラムをロードし、抽出、計算、比較、統計処理等を実施し出力する方法
[2] 被監査会社の電子記録化された監査対象データを電子記録のまま入手し、監査人の管理下にあるPC等を用いて、監査人が、入手したデータを利用し、必要な監査手続(合計調べ・抽出・分析等)を実施する方法
[3] 被監査会社より貸与されたクライアントPC等からネットワークを介してデータベースへアクセスし、必要な監査手続(合計調べ・抽出・分析等)を実施する方法

 

過去においては[1]による方法が主でしたが、ユーザ向けデータ活用ツールの普及、高性能・小型PCの出現、表計算ソフトやデータベースソフトの充実により、現在は[2]や[3]の方法が主流となっています。[3]の方法は、システムに精通した専門の担当者が実施することが多いですが、[2]の方法によれば、比較的容易にCAATを行うことが可能となります。たとえば、会社の利用する会計ソフトや在庫管理システムから、データを入手することができれば、そのデータをもとに[2]の方法でCAATを行えます。この場合、大量のデータ処理を伴う監査手続の実施が可能となり、手作業のように手間を掛ける必要がなくなります。

データ監査によれば、現状の監査資源を前提としたうえで、膨大なデータから異常なものを発見しやすく、不正リスクへの対応に有効な手続となります。このように、監査人は、内部統制を理解した上でデータ監査を活用することにより、「有効かつ効率的に監査を行う」というリスク・アプローチの目的を達成した監査を実施することが可能となるでしょう。今後、期待ギャップを縮小するために、監査手続の増加・精緻化のみを進めていくのではなく、データ監査の活用についてもより一層検討していくことが大切なのではないかと思います。

 
【参考文献】
1.期待ギャップ縮小に向けての監査基準改訂
逐条解説 改訂監査基準を考える 増補版  同文舘出版  著者 八田進二・町田祥弘
監査基準設定前文 平成14年改訂・平成17年改訂
日本経済新聞(2012年4月25日朝刊)

2.不正リスクへの対応の形骸化

財務諸表監査における不正(監査基準委員会報告書240)

3.データ監査の提案
ITを利用した情報システムに関する重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び評価したリスクに対応する監査人の手続について(IT委員会実務指針第6号)
執筆者:清川早苗
 

 

近年の不正事例について

近年、数々の会計不正事案が発生しニュース等を賑わせています。監査の現場でもこれに対応するべく「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」が企業会計審議会より公表されるなど、会計不正は大きなトピックになっています。ここでは今までに報道された2つの不正の事案について解説したいと思います。

1.オリンパスによる巨額損失隠し

[1]概要

2011年11月、オリンパスより「過去の損失計上先送りに関するお知らせ」と題したプレスリリースが発表されました。これには1990年代頃から有価証券投資等にかかる損失計上の先送りを行っていたこと、ジャイラスの買収に際しアドバイザーに支払った報酬や優先株の買戻しの資金並びに国内新事業三社の買収資金が、複数のファンドを通す等の方法により、損失計上先送りによる投資有価証券等の含み損を解消するためなどに利用されていたこと等が記載されています。

オリンパスは、1985年以降の急速な円高によって大幅に営業利益が減少したことを受け、当時盛り上がりつつあった財テクを重要な経営戦略と位置づけ金融資産の積極的運用に乗り出しました。しかし、1990年にバブル経済の崩壊に伴い発生した損失を取り返すため、ハイリスク・ハイリターン商品に手を出し、その結果金融資産の含み損は1990年代後半には1000億円をやや下回るほど巨額なものになりました。これらの膨れ上がる含み損を先送り策で対応していましたが、1998年頃、それまでの取得原価主義から時価評価主義に転換する動きが出始め、巨額の投資損失が表面化してしまう恐れが生じました。

[2]損失分離スキーム

こうした事態を回避するために、連結決算の対象とならないファンドに含み損を抱える金融商品を簿価で買い取らせ含み損を表面化させない、いわゆる「飛ばし」のスキームを考えました。具体的には@含み損を抱える金融商品を引き受ける受け皿ファンドを設立し、A当該金融商品を簿価で買い取るための資金をオリンパスの預金等を担保に銀行から借り入れ、受け皿ファンドに流す、というものです。

オリンパスはこのようにして受け皿ファンドに損失を移転し、連結財務諸表から含み損を分離しました。

[3]損失解消スキーム

しかしながら、オリンパスは預金担保貸付により資金を調達したためいずれは返済しなければならず、ファンドへの出資金も償還してもらう必要がありました。そこで@ファンドが安価に購入したベンチャー企業を高額で買い取る、A大型のM&A案件でファンドに高額の手数料を支払う、などの方法で資金を流し、その資金を還流させて、関与したファンド等の債権債務を整理する手法を考えました。その際、オリンパスが余分に支払う金額はのれんとして資産化し、のれんの償却という形で費用化して段階的に損失を解消しようと考えたのです。

(1) まず、ファンドがアルティス、ヒューマラボ、NEWS CHEF(以下国内3社という)の増資を一株あたり5万円〜20万円程度の安い価格で引き受け、オリンパスはこれらの株式を一株あたり400万円〜2000万円超の著しく高い価格で取得しました。この際、ファンド側では当該取引により得た多額の売却益(売却代金)で損失分離スキームにより発生した債権債務関係を解消させ、オリンパス側では国内3社の実際の企業価値と取得価額との差額をのれんとして計上し、ファンドに分離した損失の一部が資産計上されることになりました。

(2) さらに、医療機器メーカー・ジャイラスの買収に際し、ファイナンシャル・アドバイザー(以下FAという)と成功報酬の一部としてジャイラスの株式オプション等を付与する旨の契約を締結しました。これは、いずれオリンパスがFAから株式を高値で買い戻し、資金をFAからファンドに流し、ファンドの債権債務関係を解消させるために考案されたものです。ここでもFAに対して支払われた報酬や株式買取代金の一部がのれんとして計上されています。


オリンパスは、以上のように複数のファンドを介した複雑なスキームにより、分離した巨額の損失を解消しました。

[4]本事案発生の原因

本事案は、社長をはじめとする経営トップの主導のもと、これを取り巻く一部の幹部によって秘密裡に行われたものでした。オリンパスにおいては、このような会社トップによって不正が行われることを想定したリスク管理体制が取られておらず、会社内部で異論を述べることがはばかられる雰囲気が醸成されていました。このように内部統制・ガバナンスが機能しておらず、取締役会等のチェック体制が不十分であったと言わざるを得ません。

また、損失隠蔽、飛ばしの手段について書類や証拠を残さず、内部からも発見しにくい方法であったこと及び外部のファンドとM&Aを利用した分かりにくい手法が取られていたことも、巨額の不正が長期間に渡って発覚しなかった一因があると考えられます。

2.花王の子会社経理部長による横領

花王の100%子会社「花王カスタマーマーケティング」で、元経理部長による2億円超の横領事件が発覚しました。

元経理部長は部下の名義でシステムにアクセスし自分で承認するという手法で架空の取引を計上。不正事実が発覚したのは、元経理部長の部下が元経理部長の行っていた経理処理を不審に思い、本社に通報したのがきっかけでした。横領は2002年頃より行われ、会社の被害総額は2億7千万円にも上るそうです。

この件においても、経理責任者という立場を悪用して不正な経理操作を繰り返しており、システムに内部統制上の不備があったと言わざるを得ません。

3.おわりに

経営トップ主導によるオリンパスの経営者不正はもちろん、子会社における従業員不正においても、不正事実の存在は会社の信用の失墜、世間的なイメージダウンなどを招き、今後の経営活動に少なからぬ影響を及ぼすものと思われます。このような不正を防止するためには、内部統制、コンプライアンスの整備を十分に行うことが大事ですが、それだけでは意図的な不正を防ぐことはできません。データ監査を導入することで既に発生している不正の早期発見を行い、不正は発見されるものという意識を全会社構成員に浸透させることで、不正が発生しにくい環境を作ることも必要になると思われます。

 
【参考文献】
オリンパス 第三者委員会調査報告書、適時開示情報
日本経済新聞(2012年9月20日)
執筆者:原木舞
 

 

不正に対応したデータ監査ツール(ActiveData)の利用について

1.はじめに

今月号の他の記事にありますように、近年、会計不正に対応すべくデータ監査ツールのニーズが高まってきています。そこで、本稿ではデータ監査ツールの一つであり、内部監査や不正検知等の役に立つ不正監査ツールであるActiveDataの特徴と機能及びその利用方法を紹介します。

2.ActiveDataの特徴と機能

まず、ActiveDataの特徴をご紹介します。

[1]使いやすい

ActiveDataの最大の特徴は、Excelへのアドオンソフトであるため、従来の不正監査ツールソフトに比べ使いやすいということです。そのため、分析する際には、Excelのリボンにあるボタンをクリックし、必要な条件を入れて実行するだけで簡単に分析が出来ます。

また、Excelを使用して年齢調べやサンプリング等を実施する場合、複雑な関数を使用する必要があります。しかし、ActiveDataでは関数を使用することなくメニューコマンドによりこれらを実行することができ、関数の知識がなくとも様々な分析が出来ます。

[2]操作のログが残る

ActiveDataでは、データファイル上で実行されたすべての手続のログ文書を保持できます。そのため、監査証拠として利用することができ、監査手続の調書化に役立ちます。

[3]コストが安い

他の一般的なデータ監査ツールの費用は1ライセンス当たり、38万円〜おおよそ98万円程度です(ライセンスの他、トレーニング及びOJTトレーニング等含む)。これに対し、ActiveDataの価格は1ライセンス当たり23,920円(通貨換算$1=¥80で計算)と低価格の設定がされており、業務の効率化とコスト低減を可能としています。にもかかわらず、その性能は他のデータ監査ツールに比べ遜色のないものとなっています。

 

次に、具体的な機能は次の通りです。

(1)集約・ピボット

分析データのグループ列を最大3つ指定することで、より詳細な条件でデータを集約することが可能です。例えば、総勘定元帳の入力者ごとの件数、貸方借方各合計金額等を集約することが出来ます。また、一度集約したデータをピボット化することで、複数の列データを追加してのより詳細な分析が可能となります。

(2)重複チェック

単一ファイルの特定のフィールド(列)に重複したアイテムを見つけます。例えば、売上ファイルにある請求書の二重発行がないかを調べることが出来ます。

(3)ギャップ

連続性チェックのギャップなど、ファイル内の指定されたフィールド(列)のギャップを認識します。例えば、小切手番号、請求書番号などの通し番号が振られているデータに欠落がないかを確認できます。

(4)統計値

選択した数値フィールド(列)を対象に、様々な統計値を計算します

(5)年齢調べ

経過日数単位にデータを分類し、集計します。滞留債権や滞留在庫の状況を確認する場合に役に立ちます。

(6)階層化

分析対象データを、指定した数値の範囲(階層)ごとに集計します。販売価格、仕入価格、在庫など様々なデータの階層化を行うことが可能です。

(7)上位・下位アイテム

Excelシートのデータから上位1000件又は下位1000件までの取引データを抽出することが可能です。また、列を2列まで選択でき、さらに絞り込んだ上位又は下位のデータを抽出することが可能です。

(8)デジタル分析

デジタル分析のうち、最も広く知られる分析方法にベンフォードの法則を利用したものがあります。ベンフォードの法則とは、自然界に出てくる多くの数値の最初の桁の分布が一様ではなく、ある特定のものになっているという法則で、具体的には1の出現率が一番高く、数字が大きくなるにつれて定率的に出現率が下がる法則のことです。不正を実行する人間は、一定のパターンを示す傾向があるといわれており、ActiveDataのデジタル分析では、分析対象データがベンフォードの法則と比較し乖離がないかを瞬時に解析することが可能です。

(9)サンプリング

ランダムサンプリング、階層化サンプリング(金額単位)、PPS(確率比率)サンプリング(金額単位)を行うことが可能です。

3.ActiveDataを利用した不正監査の具体例

不正会計の手口はそれぞれケースバイケースであり、全く同じ方法で行われている不正の手口はありません。しかし、様々な手口について、その特徴や性格に基づいた分類は可能であり、例えば、証券取引等監視委員会が毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集(平成23年6月公表)」には、過去の課徴金事例に係る不適正な会計処理の累計が示されています。

今回は当該不適正な会計処理の累計のうち、売上関係の不正について、ActiveDataを利用した具体的な分析例を紹介します。

 

[1]従来の監査手続におけるActiveDataの利用法の紹介

通常、売上関係に対する監査手続としては、分析的手続、売上取引の計上基準の妥当性の検討、カット・オフ・テスト(売上の期間帰属を検証する手続)などがあり、売上の対となる勘定科目である売掛金に対する監査手続としては、同じく分析的手続及び残高確認や年齢調べ表による滞留債権の検証などがあります(これはほんの一例であり、会社ごとに様々な監査手続が考えられます)。

例えば、売掛金の年齢調べ表は会社が各債権の滞留状況を把握するためにその作成は必須のものであり、監査人側も、その資料の正確性・網羅性を検証することになります。従来の監査による検証は煩雑でありましたが、ActiveDataによれば、売掛金の生データがあれば、リボン上の年齢調べのボタンをクリックし、条件を入力するだけで簡単に年齢調べ表を作成することができ、会社側が作成したものを検証するのに役立ちます。

さらにここで、会計不正のうち売上の前倒し計上に着目してActiveDataの活用法を考えてみます。売上高の前倒し計上とは、会計期末時点において、売上高の計上基準を満たしていない売上取引について当該売上を当期の売上高として計上する不正会計の手口です。売上の前倒し計上に伴い計上された売掛金の計上日から決済までの期間(滞留期間)は、通常の売上に係る売掛金よりも前倒し計上した分だけ長くなります。そのため、ActiveDataを使用し、全体の債権の年齢調べを行うとともに、個別の債権の年齢調べも行います。もし、個別の債権に長期滞留となっているものがないにも関わらず、全体の滞留期間が長期化している場合、売上の前倒し計上等の可能性が高いといえます。

 

[2]ActiveData利用することで広がる監査手続の紹介

ActiveDataならではの手続きにスクリーニング(あるデータの中から一定の基準を満たすデータを取り出す作業のことをいいます。)があります。従来の監査では、すべての会計処理を一つ一つチェックすることは現実的ではなく、時間もかかり不効率です。また、膨大なデータの処理にExcelを利用したとしても関数を使用しなければならず、ITの専門知識がないと難しい場合もありました。

スクリーニングの例として、得意先マスタファイルの追加・削除データの識別があります。顧客マスタの追加又は削除には不正の可能性があります(あくまで可能性ですが)。例えば、売上高を水増しするために、偽の売上・請求を架空の顧客マスタに計上することがあるからです。同様に不正に使用された後のマスタは削除される可能性があることから、これらを識別することで不正発見の糸口になることがあります。もし何十万件もの顧客マスタが存在する会社であっても、Active Dataであれば、簡単にこれらを識別することが出来ます。

4.おわりに

これら不正に対応した手続きは、効率性を度外視すれば小規模会社ならば手作業で出来るかもしれません。しかし会社の規模が拡大し複雑化していく中ではすべての証憑をチェックするのは不可能であり、不効率です。また、データ監査ツールによれば、人の目では発見できないような不正データの検出に役立ちます。

今後、データ監査ツールの使用は、不正対応の監査手続きにおいて無くてはならないものになると考えられます。

 
【参考文献】

「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」に対する意見書 平成24年10 月18日日本公認会計士協会
新井千晶・伊藤公哉・水田朋子著「監査人のためのコンピュータ利用監査技法CAATの実践ACL編」 株式会社 清文社
宇澤亜弓著「不正会計 早期発見の視点と実務対応」株式会社 清文社
金融商品取引法における課徴金事例集(平成23年6月公表) 証券取引等監視委員会

ActiveData For Excel パンフレット
執筆者:古田 まゆみ
 

連載記事

 
 

IFRS(国際財務報告基準)第25回 IAS第32号「金融商品:表示」

1.はじめに

IFRSにおいては、金融商品の認識と測定、表示、開示の3つの領域について、それぞれ異なる基準で取り扱っています。今回は、IAS第32号「金融商品:表示」(以下、IAS第32号という。)について紹介します。

2.目的、適用範囲及び定義

IAS第32号の目的は、負債又は資本としての金融商品の表示並びに金融資産及び金融負債の相殺に関する原則を確立することにあります。IAS第32号は、すべての企業が、すべての種類の金融商品に適用しなければなりません。

3.定義

IAS第32号では、金融商品を、一方の企業にとって金融資産を生じさせ、他の企業にとって金融負債又は資本性金融商品を生じさせる契約をいいます。以下、金融資産、金融負債及び資本性金融商品の定義を示します。

 

【1】金融資産

金融資産とは次の資産のことをいいます。

(a)現金

(b)他の企業の資本性金融商品

(c)他の企業から現金又は他の金融資産を受け取る契約上の権利(例えば、売掛金や貸付金)、又は金融資産又は金融負債を当該企業にとって潜在的に有利な条件で他の企業と交換する契約上の権利

(d)企業自身の資本性金融商品で決済されるか、決済される可能性のある取引のうち、@デリバティブ以外で、企業が企業自身の可変数の資本性金融商品を受け取る義務があるか、その可能性高いもの。又はAデリバティブで、固定額の現金又は他の金融資産と企業自身の固定数の資本性金融商品との交換以外の方法で決済されるか、その可能性があるもの。

【2】金融負債

金融負債とは次の負債のことをいいます。

(a)他の企業へ現金又はその他の金融資産を引き渡す契約上の義務(例えば、買掛金や借入金)、又は金融資産又は金融負債を当該企業にとって潜在的に不利な条件で他の企業と交換する契約上の義務

(b)企業自身の資本性金融商品で決済されるか、決済される可能性のある取引のうち、@デリバティブ以外で、企業が企業自身の可変数の資本性金融商品を引き渡す義務があるか、その可能性高いもの。又はAデリバティブで、固定額の現金又は他の金融資産と企業自身の固定数の資本性金融商品との交換以外の方法で決済されるか、その可能性があるもの。

【3】資本性金融商品

資本性金融商品とは、企業のすべての負債を控除した後の資産に対する残余持分を証する契約のことをいいます。

4.金融商品の表示

【1】負債及び資本
金融商品の発行体は、当該金融商品又はその構成部分を、当初認識時において、契約の実質並びに金融資産、金融負債及び資本性金融商品の定義に従って、金融資産、金融負債及び資本性金融商品に分類しなければなりません。この場合に、金融負債と資本性金融商品の分類の判定が重要となりますが、3.定義の【2】金融負債の定義の裏返しの要件を満たすものが資本性金融商品となります。
【2】複合金融商品
複合金融商品とは、金融負債と資本性金融商品の2つの部分で構成されている金融商品をいいます。例えば、保有者が企業の固定数の普通株式に転換可能な社債などがありますが、このような複合金融商品については、@企業の金融負債を創出する部分と、A当該金融商品の保有者にそれを企業の資本性金融商品に転換する権利を与える部分とを区分して認識しなければなりません。なお、我が国の会計基準においては、転換社債の発行側の表示方法として、IAS第32号のような区分法と呼ばれる処理以外に、区分せずに負債に表示する一括法という表示方法も認められています。
【3】自己株式
企業が自己株式を取得した場合には、自己株式は資本から控除しなければなりません。また、自己株式の購入、売却、発行又は償却に関して利得又は損失を認識してはなりません。なお、我が国の会計基準においては、自己株式の処分に係り利得又は損失が生じた場合には、その他資本剰余金を加減算しますが、自己株式の購入、売却、発行又は償却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上します。
【4】利息、配当、損失及び利得
金融負債である金融商品又はその構成要素に関連した利息、配当、損失及び利得は、純損益に収益又は費用として認識しなければなりません。資本性金融商品の保有者に対する分配は、関連する税効果を控除後に、資本に直接借方計上しなければなりません。また、資本取引の費用は、関連する税効果を控除後に、資本からの控除として会計処理しなければなりません。
【5】金融資産と金融負債の相殺
金融資産と金融負債は、次の条件を満たす場合には、相殺しなければなりません。

(a)認識された金額を相殺する法的に強制力のある権利を有しており、かつ、

(b)純額で決済するか又は資産の実現と負債の決済を同時に実行する意図を有している。

 
【参考文献】
・IAS第32号
・国際財務報告基準の適用ガイドブック 中央経済社
・IFRS会計学基本テキスト 中央経済社
執筆者:関和輝
 

 

国際監査基準のクラリティ版について解説(第16回)
「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示のリスクの識別と評価」について

1.基準の概要

今回は、監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示のリスクの識別と評価」について解説します。これは、2013年3月決算に係る監査から適用されている基準であり、国際監査基準(ISA)315に対応しています。

2.目的

本基準における監査人の目的は、内部統制を含む企業及び企業環境の理解を通じて、財務諸表の重要な虚偽表示リスクを識別し評価することです。監査人は、企業の事業遂行や内部統制に起因して生じるリスクを幅広く評価し、その上で財務諸表の重要な虚偽表示のリスクを識別し、評価することを求められています。これにより、リスク対応手続の立案と実施に関する基礎が提供されます。

3.リスク評価手続とこれに関連する活動

リスク評価手続は、第1段階として、内部統制を含む企業及び企業環境の理解を行い、第2段階として財務諸表の重要な虚偽表示リスクの評価を行います。

なお、財務諸表の重要な虚偽表示リスクは、財務諸表全体レベルとアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し、評価します。財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクとは、財務諸表全体に広く関わりがあり、アサーションの多くに潜在的に影響を及ぼすリスクをいいます。また、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクとは、従来の監査基準では勘定科目レベルの重要な虚偽表示リスクと言われていたものであり、@監査対象期間の取引種類と会計事象に係るアサーション、A期末の勘定残高に係るアサーション、B表示と開示に係るアサーションの3つに分類されています。

4.内部統制を含む企業及び企業環境の理解

(1) 企業及び企業環境の理解

監査人は、企業及び企業環境を理解について、次に掲げる事項を理解しなければなりません。

(a) 企業に関連する産業、規制等の外部要因

(b) 企業の事業活動等

(c) 企業の会計方針の選択と適用

(d) 企業目的及び戦略並びにこれらに関連して重要な虚偽表示リスクとなる可能性のある事業上のリスク

(e) 企業の業績の測定と検討


(2) 内部統制の理解

上述の通り、監査人は監査に関連する内部統制の理解を行います。これは、内部統制のデザインを評価し、これらが業務に適用されているかどうかについて、企業の担当者への質問とその他の手続を実施して評価します。なお、監査人が理解すべき内部統制の構成要素は以下の通りとなります。

(a) 統制環境

(b) 企業のリスク評価プロセス

(c) 財務報告に関連する情報システムと伝達

(d) 監査に関連する統制活動

(e) 監視活動

5.重要な虚偽表示リスクの識別と評価

監査人は、第2段階として、上記の内部統制を含む企業及び企業環境の理解に基づき、重要な虚偽表示リスクの識別と評価を行います。

監査人は、リスク対応手続を立案し実施する基礎を得るために、財務諸表全体レベルとアサーション・レベルの2つのレベルで重要な虚偽表示リスクを識別し評価します。

重要な虚偽表示リスクを識別し評価するために、以下の事項を実施します。

(a) 内部統制を含む企業及び企業環境を理解・検討しながら、虚偽表示リスクを識別する

(b) 識別した虚偽表示リスクが、財務諸表全体に広く関わりがあるか等を評価する

(c) 識別した虚偽表示リスクが、アサーション・レベルでどのような虚偽表示になり得るのかを関連付ける

(d) 複数の虚偽表示につながる可能性も含め、虚偽表示の発生可能性を検討し、潜在的な虚偽表示の影響の度合いを検討する


(1) 特別な検討を必要とするリスク

監査人は、リスク評価の過程で、監査人の判断により、識別した重要な虚偽表示リスクが特別な検討を必要とするリスクであるかどうかを決定しなければなりません。特別な検討を必要とするリスクは、多くの場合、重要な非定型的取引や判断に依存している事項に係るものであり、判断に依存している事項には、重要な測定の不確実性が存在する会計上の見積りを含むことがあるとされています。

特別な検討を必要とするリスクであるかどうかの判断に際して、監査人は、当該リスクに関連する内部統制の影響を考慮しません。監査人は、識別した重要な虚偽表示リスクが特別な検討を必要とするリスクであるかどうかを決定する際、以下の事項を考慮することになります。

(a) 不正リスクであるかどうか

(b) 取引の複雑性

(c) 関連当事者との重要な取引に係るものであるかどうか、など


(2) 実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスク

監査人は、一部のリスクについて、実証手続のみでは、十分かつ適切な監査証拠を入手することができない又は実務的ではないと判断することがあります。このようなリスクは、手作業がほとんど又は全く介在しないことを可能にする高度に自動化された処理の特性等に関係していることがあります。この場合には、これらのリスクに対応する内部統制は監査に関連するものであるので、監査人は当該内部統制を理解しなければなりません。


(3) リスク評価の修正

アサーション・レベルの重要な虚偽表示のリスクに関する監査人の評価は、監査実施中に入手した他の監査証拠により変更されることがあります。監査人は、リスク対応手続において監査証拠を入手した場合や新しい情報を入手した場合において、当初の評価の基礎となった監査証拠と矛盾するときには、リスク評価を修正し、これに応じて計画立案したリスク対応手続も修正しなければなりません。

 

(4) 監査調書

監査人は、企業及び企業環境の各々の事項と内部統制の各構成要素に関し理解した主な内容、識別し評価した財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクとアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスク、識別したリスク及びそのリスクに関連して監査人が理解した内部統制などを監査調書に記載します。

 
執筆者:吉田隆伸
 


    明誠グループ    
明誠監査法人   明誠リサーチアンドコンサルティング
明誠税務会計事務所   明誠労務管理事務所

  明誠ニュースレター vol.26
2012年12月7日発行
発行責任者:武田剛 プロダクトマネジャー:村田博明
制作:株式会社ゼラス 佐々木景子
※このニュースレターに含まれる文章、画像の無断転載はご遠慮ください。