明誠グループニュースレター

情報フラッシュ [ 連載記事 ]
IFRS(国際財務報告基準)第26回 IAS第39号「金融商品:認識及び測定(前編)」
国際監査基準のクラリティ版について解説(第17回)「評価したリスクに対応する監査人の手続」について
[ トピック解説 ]
不正監査特集
不正対応監査基準等の公開草案の概要
留意すべき通例でない取引等に対する監査手続の考察
監査現場で何が起こっているのか

情報フラッシュ

 
発表日時 表題
平成24年12月21日 金融庁は「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定及び監査基準の改定について(公開草案)」を公表しました。
平成24年12月10日 日本公認会計士協会は「「税効果会計に関するQ&A」の改正について(公開草案)」を公表しました。

トピック解説

 
不正監査特集
「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定及び監査基準の改訂について(公開草案)」が平成24年12月21日に企業会計審議会監査部会から公表されました。本ニュースレターでも2回にわたってこの不正リスク対応基準の制定に関連したテーマを取り上げて来ましたが、今回は、公開草案の概要を紹介するとともに、基準案の付録2「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況の例示」に即して、不正リスクに対応する監査手続について特集したいと思います。

 

不正対応監査基準等の公開草案の概要

1.概要

[1]公表の経緯

公開草案の冒頭の部分では、公認会計士監査とその規範となる監査基準は、適正なディスクロージャーを確保するための資本市場の重要なインフラストラクチャーであること。近時の相次ぐ巨額の粉飾事件は、結果として公認会計士の監査が有効性への疑いを招いてしまったことが経緯として述べられています。また、監査基準の国際的な見直しの動向などにも触れ、こうした背景の中で、職業的懐疑心の重要性の再認識や不正に対応した監査手続等の検討を行った結果、この基準案の公表につながったとしています。


[2]「考え方案」からの変更点

公開草案に先立つ「考え方案」において、被監査企業と取引先企業の通謀が疑われる場合の有効な監査手続として基準案の目玉の一つとされていた「取引先企業の監査人との連携」については、今回の公開草案では削除され、継続的に検討するとされました。

「考え方案」に記載されていた取引先企業の監査人が確認状にサインする等の手続は、個別の項目に監査人の証明を付すのと同じ行為となり、財務諸表が全体として適正であるか否かという監査と本質的に異なる手続であり、「監査人の使命」を逸脱した過度な負担と責任を負わせるものでした。この項目が削除されたことは当然のことと私は思っていますが、「継続的に検討する」とされた点は疑問が残ります。


[3]位置づけ

不正リスク対応基準案の内容のほとんどは、すでにある監査基準、品質管理基準及び公認会計士協会の実務指針に記載されているものです。職業的懐疑心を強調し、不正の観点で取りまとめた基準となっています。形式的には、自主規制団体の実務指針のレベルではなく、金融庁の企業会計審議会が設定することで、不正に対して十分な対応を行うことを内外に強調する狙いがあるといえます。


[4]監査への影響

不正といっても、あらゆる不正を対象としているのではなく、重要な虚偽の表示の原因となる不正のみを対象としています。また、不正リスク対応手続を規定しているものであり、財務諸表監査の目的を変更するものではなく、不正摘発自体を意図するものでもありません。従来の監査に画一的に追加手続を求めるものではなく、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況があった場合にのみ、十分な対応をするように求めるものです。そして、不正による重要な虚偽の表示を発見できなくても、正当な注意を払って監査を行った場合には、監査人は責任を問われることはないものと考えられると、公開草案には書かれています。


[5]適用対象

対象となる監査は、金融商品取引法監査(一定規模以下の非上場企業を除く)のみです。


2.不正リスク対応基準の内容

[1]不正リスク対応基準の構成

基準は、@職業的懐疑心の強調、A不正リスクに対応した監査の実施、及びB不正リスクに対応した監査事務所の品質管理の3つから構成されています。


[2]職業的懐疑心の強調

監査人が不正リスクに対応するためには、誤謬による重要な虚偽表示のリスクに比べ、より注意深く、批判的な姿勢で臨むことが必要であるとして、職業的懐疑心を強調するために、冒頭に「職業的懐疑心の強調」を契機し、監査人対し、監査の各段階で職業的懐疑心を発揮することを求めています。また、その結果としての具体的な監査手続を実施することが期待されると書かれています。


[3]不正リスクに対応した監査の実施

監査計画段階においては、現行の重要な虚偽表示リスクの検討に加え、不正リスク要因の検討や不正リスクを把握するために必要な手続を規定し、識別・評価した不正リスクに応じた監査計画の策定を求めています。典型的な不正リスク要因は付録1として例示されました。

監査チーム内の討議・情報共有や監査責任者の責任として、重要な会計および監査上の問題に対する構成員への指示など義務が明記されています。

監査手続においては、不正リスクに関連する監査証拠として、他の監査要点に比べより適合性が高くより証明力が強く又はより多くの監査証拠を入手しなければならないこと、企業が想定しない監査手続の要素の組み込むこと、不正リスクに対応して実施する確認として、安易に代替的な手続に移行してはならないことが記載されています。これらは、本来的には従来の監査実務に変更をもたらすものではないはずです。しかしながら、前文に、不正リスクが識別された場合の手続として、「抜き打ちの監査手続の実施」が記載されています。抜き打ち調査を行う法的権限が与えられていない民間の監査人にこの様な事を求めるのは実質的に不可能であり、個人的にはこの文言が削除されることを望んでいます

入手した監査証拠の十分性及び適切性を評価し、不十分な場合には追加手続きを実施しなければならないこと、矛盾した監査証拠があった場合等の対応についても記載されていますが、これらは特に実務に変更をもたらすものではないと思います。

付録2として、「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況の例示」が示され、識別した場合には、適切な階層の経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならないとしています。付録2はあくまで例示であり、チェックリストとして取り扱うべきものではないとしています。

不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合に監査手続を実施してもなお、十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑義として扱わなければならないとされています。追加的な監査手続の実施の結果、疑義がないと判断した場合には、その旨と理由を監査調書に記載しなければならないことが明記されています。不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合の修正監査計画の策定と実施についても明記されました。

その他には、不正リスクの内容や程度に応じて、他の専門家等の技能又は知識を利用する必要性を判断しなければならないこと、審査については、不正リスクが識別された場合、適時の事前審査やより慎重な審査手続が求められることが明記され、監査役との連携や監査調書への記載についても触れています。


[4]不正リスクに対応した監査事務所の品質管理

監査事務所の品質管理についても、従来から行っている品質管理のシステムに追加を求めているものではなく、不正リスクに対応する観点から特に留意すべき点を明記したものと説明されています。

監査事務所間の引継については、オリンパス事件で話題となった点でもあり、前任監査事務所に対して、十分な引継や関連調書の閲覧に応じることを義務付ける内容となっています。

3.監査基準の改訂

[1]審査

従来の監査基準では、すべての監査に一律に審査が義務付けられていましたが、国際的には上場会社とそれ以外の監査において差を設けていることから、社会的影響の少ない監査については、他の方法を実施することにより審査を受けずに意見表明できることとされました。


[2]監査役等との連携

監査の実務指針等では、従来から監査役等との連携が義務付けられていましたが、監査基準には記載されていなかったため、追加されることになりました。

4.実施時期等

不正リスク対応基準及び改定監査基準は、平成26年3月期決算にかかる財務諸表の監査から実施されます。不正リスク対応基準のうち、不正リスクに対応した監査事務所の品質管理については、平成25年10月1日から実施されます。

 
執筆者:武田剛
 

 

留意すべき通例でない取引等に対する監査手続の考察

1.はじめに

他の記事で触れているように、重要な虚偽表示の不正リスクがない監査においては、監査手続の追加の実施は必要なく、監査実務に大きな影響は出ないと考えられます。しかしながら、日本における長年の景気の低迷や不透明な景気の先行きを考えると、基準案の付録1に例示された不正リスク要因に示された厳しい事業環境は、どんな企業においても該当してしまうものだと思います。

そのような場合には、不正による重要な虚偽の表示がないかどうかを確かめるため、監査計画において追加的な監査手続を策定する必要が出てくると思われます。また、基準案の付録2に例示されているような状況を発見した場合には、経営者に対する質問だけでなく、追加的な監査手続を実施する必要が出てくる場合があります。

不正リスクは多種多様であるため、それに対応する追加的な監査手続も多様なものとなり網羅的に検討することはもちろん不可能ですが、いくつかの事例を想定して、必要となる手続について考察したいと思います。

2.売上の早期計上・架空売上

売上の早期計上や架空売上を検出する手続として、次のようなものが一般的です。これらの手続により抽出された取引については、必要に応じて、企業の担当者にヒアリングし、他の帳簿や証憑と突合し、追加的な分析を行い、又は外部証拠を入手するなどの追加手続を実施することになります。また、詳細な説明は省きますが、前号のNews Letterで紹介したActive Dataなどのデータ監査ツールを利用することにより、広範囲に網羅的に詳細にかつ効率的・効果的に異常データの検出を行うことが可能となります。

@ 部門別・製品ライン別などの詳細レベルでの月次推移分析
A 期末日に近い数日間、決算月の取引における多額の売上取引の抽出・分析
B 決算修正仕訳に含まれる売上修正取引の吟味
C 販売管理数値と会計数値の突合又は比較分析
D 在庫受払記録と販売管理数値の突合又は比較分析
E 返品・値引きの月次推移分析や期首直後の期間における分析
F 滞留債権分析、売上債権の年齢調べ
G 個別の売上債権の期末日後の回収期間分析
H 過去の貸し倒れ処理の内容分析
I 取引先の所在地のリスク分析
J 売上債権の貸方処理の相手勘定分析

3.特殊な売上粉飾

一般的な売上粉飾について例示しましたが、売上の粉飾の中には、循環取引、スルー取引、クロス取引、マネーロンダリングの一部として行われる取引などの簡単に検出できない不正取引もあります。

[1]循環取引

循環取引とは、複数の企業で共謀して特定の物品または架空の物品の売買を繰り返すことで、その企業間で循環的に何度も架空の取引が行われるものです。通常は、一定の利益を上乗せして売買され、代金も通常通り決済され、証憑は整えられています。残高確認等の手続も取引先との共謀がある場合は機能しません。もちろん組織ぐるみで行われるため、内部統制が機能することはありません。

では、現物に着目すればどうでしょうか。在庫については、どこかの倉庫に置かれ、移動させずに保管されています。しかし、在庫を移動させずに引き渡しを行うことは、何らおかしな取引ではありません。期末時点では外部監査が入っていない企業の在庫に計上されていれば、外部監査人による棚卸立会による発覚を防ぐことができます。

こうしたことから考えると、循環取引による不正は、分析、ヒアリング、証憑突合、外部確認、棚卸立会等の手続を尽くして発見することは困難だという結論に達します。もちろん、監査人間の連携も取引先の監査人に過度な負担を強いる割には、効果は薄いものだと思われます。

ただし、循環取引は1件で多額の取引となる場合が多いと思われます。こうした不正取引は、関係者の間でその実態を把握しておく必要があることから、少ない件数で多額の取引を行う必要があるのです。年間の売上取引をデータ監査ツールなどを用いて網羅的にスクリーニングして、取引一件当たりの金額が異常に多額の取引を抽出した場合に、循環取引を検出できるかもしれません。

また、循環取引では仕入れた物品に利益を上乗せして、一定期間を置いて売上げます。利益を上乗せしないと異常な取引となってしまいますし、一定期間を置かないと利益の上乗せ額がすごい速さでつみあがってしまって、循環取引スキームが破たんするからです。循環取引は、利益率の異常に低い取引として抽出されるかもしれません。循環取引に参加させられた企業の中には、上場企業ほどの体力のない企業も含まれていることでしょう。その場合には、循環取引を主催した企業は、参加企業のうち体力のない企業に金利分の手数料を何らかの経費科目又は投融資の形で支払うことになります。不正リスクがある場合に支払手数料、顧問料などの無形のサービスについて内容を分析することや、投融資の内容について経済合理性を検討することは、循環取引発見の糸口となるかもしれません。

スルー取引やクロス取引は、かつてソフトウェア業で非常に多く行われた粉飾取引です。これらも取引の実態や現れる事象が循環取引に似ています。検出するための手続も類似しています。ただし、ソフトウェアの場合、在庫がなく、サービス内容が認識しづらいことから、検出してからの判断が難しい取引です。ソフトウェアのユーザーインターフェースや機能説明書、仕様書や開発進捗状況表などを整えられた場合にはだれもが納得させられてしまうに違いありません。


[2]マネーロンダリングの一部として行われる取引

日本の監査現場では話題になることは少ないかもしれませんが、北米などでは、麻薬売買や売春等の犯罪から得た資金を表の資金に洗浄する取引が不正監査の大きな分野となっています。マネーロンダリングの不正リスクにさらされている点は、取引の規模の大小の差はあれ、日本でも同様です。

しかし、マネーロンダリングの一部として行われる売上取引は、強制捜査権のない外部監査人にはほとんど発見できないのではないかと思っています。資金のある裏の組織が、株式市場等を通じて株を取得し、一方で売上取引に協力すれば、儲けがあるかどうかは別として、裏の資金を表に変えることは簡単です。売上取引は、場合によっては通例よりも多額となり、取引先も実態がない企業かもしれません。また、そのような取引が検出されても、マネーロンダリングの一部として行われる売上取引だと断定するには、やはり警察権力等の協力がない限り不可能だと思われます。現行の日本の外部監査制度では、対応できない取引であると思われます。

4.工事原価の付替え

工事原価の付替えは、建設業や広告代理業などでは多く行われている不正であると言われています。建設工事などは概算見積もりをして、一定の利益率を確保できる見通しのうえで受注をします。しかし、実行予算を組み、工事を実施していくうちに、その工事の原価が予算を超過し、かつ受注金額の増額ができない場合などは、利幅が縮小し、赤字となることもあります。こうした場合に、下請業者への発注工事を別のプロジェクトの現場に付け替えて、工事原価を少なく計上するのが工事原価の付替えです。付替えが決算期をまたいで行われた場合には、売上原価の過少計上となり、粉飾決算につながります。

工事原価の付替えを行うと、多くの場合は同じ担当者や部門が管理している次のプロジェクトで架空の発注が行われます。同時並行でいくつもの工事がスタートしていない限り、その発注から支払いまでの期間は、通常に比べて短くなります。場合によっては、材料の納品や下請け工事の完了が異常に早く記録されるケースも出てきます。これらは、プロジェクトコードの取得日、受注日、下請工事等の発注日及び下請け業者等への支払日などをデータ監査ツールなどで網羅的に分析すると異常値が検出されることがあります。

高度成長期や不動産バブルの時期であれば、原価の付替えをしているうちに「利益に余裕のあるプロジェクト」に遭遇して、目立たない形で処理できたケースも多かったと思いますが、低成長期や長期の景気低迷の局面では、しばしば架空工事の受注・売上計上という形で処理されることになります。この場合には、完成工事未収入金が長期にわたって未回収となり、貸倒れ等により、最終的に処理されます。この場合には、売上の早期計上・架空売上げに例示した手続により異常なデータが検出されることになります。

5.資金還流取引等のオフバランス取引の可能性を示唆する状況

資金還流取引等の可能性を示唆する状況として、「企業の事業内容に直接関係のない又は事業上の合理性が明らかでない重要な資産の取得、企業の買収、出資、費用の計上」が例示されています。監査人は、こうした取引を発見した場合には、経営者からのヒアリングに加えて、関連資料を追加的に要求してその検討を行うとともに、複数の担当者から追加的なヒアリングを行い経済合理性や実在性を慎重に検討することになります。また、その裏付けのために、証憑突合や確認、視察などの深度ある実証手続を行うことになります。これが経営者による不正の場合、もっともな説明資料や証憑書類が整えられている場合もあり、こうした取引自体を追及しても適正意見を表明しないことの根拠を積み上げるのは容易ではないケースが多いのではないでしょうか。一方で、そのようなケースこそ、監査人の職業的懐疑心やヒアリング能力、気づきのスキルを発揮すべき絶好の機会だとも思われます。

すべてにあてはまるわけではありませんが、このような取引の背景には、先行する粉飾取引が存在するケースが多いと思われます。監査対象期間のみならず、前期も含めて、売上の早期計上・架空売上、不良資産の隠蔽・飛ばしや不適切な評価、原価・費用の未計上や繰り延べなどが行われた可能性を調査することも有効な手続であると思います。

基準では、このような状況を検出した場合には、修正監査計画を策定し、不正リスクに対応した監査手続を実施することを義務付けていますが、私の考えでは、これらは通常実施すべき監査手続であり、特別なものではありません。蛇足かもしれませんが、監査人には強制捜査件はなく、探偵が行うような調査を実施する能力はありません。また、職業的懐疑心は、常に保持しているものであり、特別な事象に対してのみ発揮するものでもありません。監査人がこうした状況に直面した時に、通常実施すべき監査手続を十分に行っていた場合には、専門家としての注意義務を果たしていることになると個人的には思っています。十分な手続を実施しているにもかかわらず、運用上、監査人に「特別な修正監査計画」や「特別な監査手続」の「検討過程および結論の文書化」を求めるようなことがなされないようにして欲しいと私は思っています。

6.その他

その他の状況として、「関連当事者又は企業との関係が不明な相手先(個人を含む)との間に、事業上の合理性が明らかではない重要な資金の貸付・借入契約、又は債務保証・被保証の契約がある」と例示されています。これらに対して監査人が行うべき手続は、前項に記載したものと同じようなものとなると思われます。

 
執筆者:武田剛
 

 

監査現場で何が起こっているのか

1.

周知の通り、今回の基準案の公表は、オリンパスの粉飾決算事件が海外で大きな話題となり、日本の上場企業が公表する財務内容やコーポレートガバナンスに対する信頼性に疑問が投げかけられたことが直接の契機となっています。一方、国際的にも粉飾事例が相次ぐ中で、会計士による監査への批判や有効性確保のための改革が提案されているところです。欧米においては、巨額な粉飾事件の企業の監査人は押し並べて4大会計事務所であることから、彼らの寡占状態と長期にわたる同一事務所による監査こそメスを入れるべきであるとされています。

2.

日本の監査は、かつては非常にばらつきがあり、大手監査法人の中でも部門によっては非常に粗雑な監査が行われていましたが、この10数年の様々な改革を経て、大きく質の底上げが図られてきたことは事実であると思います。

3.

しかしながら、一方で金融庁の公認会計士・監査審査会や公認会計士協会の品質管理レビューの現場において重箱の隅をつつくような誤った指摘や改善勧告、会計士協会の審査会や綱紀委員会による先入観や誤った事実認識に基づく指摘や処分が、監査の現場を委縮させ、責任回避のためのより細かい証拠固めや文書化に腐心させる結果となっているため、本質を見て職業的懐疑心を発揮する余裕を失わせて、監査の質を一方で悪化させているのではないかと思っています。私は、最近のこうした監査の傾向が進めば、監査現場は作業に追われ、監査調書を整えることだけに長けた人材が育ち、ますます将来の監査の質が悪化するのではないかと危惧していました。

 

4.

今回の基準の制定及び改定は、その運用によって、形式主義的で細かい調書作りを助長することになるのか、より本質的な監査を目指す方向に舵を切りなおすきっかけになるのかわかりません。その方向性を決めるのは、一方で監督官庁や自主規制団体の担当者だと思われますが、もう一方では一人ひとりの監査責任者をはじめとした現場の監査人でもあると思います。私もその一人として最大限の努力をしていかなければならないと考えています。

 
執筆者:武田剛
 

連載記事

 
 

IFRS(国際財務報告基準)第26回 IAS第39号「金融商品:認識及び測定(前編)」

1.はじめに

今回は、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」(以下、IAS第39号という。)の金融商品の分類、当初認識と測定、当初認識後の測定について紹介します。なお、金融商品に係る会計基準としては、IAS第39号の規定をIFRS第9号「金融商品」に置き換えるプロジェクトが進められており、2015年1月1日以後開始する事業年度より適用となります。

2.金融商品の分類

IAS第39号では、金融商品を以下の4つに分類しています。

【1】純損益を通じて公正価値で測定する金融資産または金融負債

売却目的保有に分類されるものと当初認識時において、純損益を通じて公正価値で測定するものとして企業が指定したものが含まれます。

【2】満期保有投資

固定または決定可能な支払金額と固定の満期を有する、デリバティブ以外の金融資産のうち、企業が満期まで保有する明確な意図と能力を有するものが含まれます。ただし、認識当初時に、純損益を通じて公正価値を測定するものとして指定したもの、売却可能として指定したもの、貸付金及び債権の定義に該当するものを除きます。

【3】貸付金及び債権

支払額が固定または決定可能な、デリバティブ以外の金融資産のうち、活発な市場での公表価格が入手できないものが含まれます。ただし、短期に売却することを意図しているもの、当初認識時に売却可能として指定したもの、信用悪化以外の理由によって、保有者が当初の投資のほとんどすべてを回収することにあらない可能性があるものを除きます。

【4】売却可能金融資産

デリバティブ以外の金融資産のうち、企業が売却可能としていたもの、または上記の【1】〜【3】のいずれにも分類されないものが含まれます。

3.当初認識と測定

【1】当初認識

企業は、金融商品の契約条項の当事者となった時に、金融資産または金融負債を認識しなければなりません。当初認識時においては、取引日会計又は決済日会計のいずれかを用いることになります。ここで、取引日会計とは、(a)受け取るべき資産とそれに対して支払うべき負債を取引日に認識すること、及び(b)売却する資産の認識の中止と購入者に対する債権の認識を取引日に行うことをいい、決済日会計とは、(a)資産を企業が受け取った日に認識すること、及び(b)資産を企業が引き渡した日に認識の中止を行うことをいいます。なお、2つの方法については金融資産の同一区分に属する金融資産のすべての購入及び売却について首尾一貫して適用する必要があります。

【2】当初測定

金融資産または金融負債の当初認識時において、金融商品は公正価値で測定されます。ただし、純資産を通じて公正価値を測定する金融資産または金融負債に分類される場合を除き、取得または発行に直接帰属する取引費用を加算して算定しなければなりません。

4.当初認識後の測定

【1】金融資産の当初認識後の測定

金融資産の当初認識後の測定については、上述した分類ごとに、以下のようにまとめられます。

分類 測定 利得及び損失の認識
純損益を通じて公正価値で測定する金融資産 公正価値 純損益
満期保有投資 実効金利法による償却原価 純損益
貸付金及び債権 実効金利法による償却原価 純損益
売却可能金融資産 公正価値 減損損失及び為替差損益を除き、その他の包括利益

ただし、資本性金融商品に対する投資のうち、活発な市場における公表市場価格がなく、公正価値を信頼性をもって測定できないもの、及びこのような公表価格のない資本性金融商品に連動しており、その引き渡しにより決済しなければならないデリバティブについては、取得原価で測定しなければなりません。

【2】金融負債の当初認識後の測定

金融負債の当初認識後の測定については、原則として実効金利法による償却原価で測定しなければなりません。ただし、純損益を通じて公正価値で測定する金融負債については公正価値で測定しなければなりません。なお、金融負債から生じた利得及び損失は、純損益に認識しなければなりません。

 
 
執筆者:関和輝
 

 

国際監査基準のクラリティ版について解説(第17回)
「評価したリスクに対応する監査人の手続」について

1.基準の概要

今回は、監査基準委員会報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」について解説します。これは、2013年3月決算に係る監査から適用されている基準で、国際監査基準(ISA)330に対応しています。

2.目的

本基準における監査人の目的は、評価した重要な虚偽表示のリスクへの適切な対応を立案し実施することによって、そのリスクについての十分かつ適切な監査証拠を入手することです。監査人は、監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示のリスクの識別と評価」に従って評価した重要な虚偽表示リスクに対して、本基準に基づいて実施する監査手続を決定します。

3.全般的な対応

監査人は、評価した財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクに対して、全般的な対応を立案し実施します。評価した財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応には、例えば以下が含まれます。

  • 豊富な経験を有する又は特定分野における専門的な知識や技能を持つ監査チームメンバーの配置
  • 実施するリスク対応手続の選択に当たっての企業が想定しない要素の組込み
  • 実施すべき監査手続の種類、時期及び範囲の変更

4.評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続

監査人は、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに応じて、リスク対応手続の種類、時期及び範囲を立案し実施します。なお監査人は、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの根拠を考慮し、評価した重要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手しなければなりません。


(1) 運用評価手続

監査人は、以下のいずれかの場合には、関連する内部統制の運用状況の有効性に関して、十分かつ適切な監査証拠を入手する運用評価手続を立案し実施します。

  • アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価した際に、内部統制が有効に運用されていると想定する場合
  • 実証手続のみでは、アサーション・レベルで十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合

@運用評価手続の種類と範囲

監査人は、運用評価手続の立案と実施に当たっては、内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を入手し、また運用評価手続の対象となる内部統制が他の内部統制に依存しているかどうかを検討します。


A期中で入手した監査証拠の利用

監査人は、期中で内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を入手する場合は、運用評価手続を実施した後の当該内部統制の重要な変更についての監査証拠を入手し、期末日までの残余期間に対してどのような追加的な監査証拠を入手すべきかを決定しなければなりません。


B過年度の監査で入手した監査証拠の利用

監査人は、過年度の監査で入手した内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を利用することが適切かどうかを決定する等の場合、全般統制の有効性、内部統制の変化、重要な虚偽表示リスクと内部統制への依拠の程度などを考慮しなければなりません。

また、監査人は、過年度の監査で入手した内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を利用する場合は、質問等により、その監査証拠の適合性を確認します。


C特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制

監査人は、特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制に依拠する場合には、当年度の監査において、これに関連する内部統制の運用評価手続を実施しなければなりません。


D内部統制の運用状況の有効性の評価

監査人は、関連する内部統制の運用状況の有効性の評価において、実証手続によって発見された虚偽表示が、内部統制が有効に運用されていないことを示唆しているかどうかを評価しなければなりません。

そして監査人は、依拠しようとする内部統制からの逸脱を発見した場合には、逸脱が生じた原因等を理解するために質問を実施し、以下の事項について判断しなければなりません。

  • 実施した運用評価手続に基づいて内部統制への依拠に関する適切な基礎を提供することが可能かどうか。
  • 追加的な運用評価手続が必要かどうか。
  • 虚偽表示の潜在的なリスクに対応する実証手続が必要かどうか。

 

(2)実証手続

監査人は、評価した重要な虚偽表示リスクの程度にかかわらず、重要な取引種類、勘定残高、開示等の各々に対する実証手続を立案し実施します。


@財務諸表作成プロセスに関連する実証手続

監査人は、財務諸表作成プロセスに関連してする実証手続に、以下の手続を含めなければなりません。

  • 財務諸表とその基礎となる会計記録との一致又は調整内容を確かめること
  • 財務諸表作成プロセスにおける重要な仕訳及びその他の修正を確かめること

A特別な検討を必要とするリスクに対応する実証手続

監査人は、重要な虚偽表示リスクが特別な検討を必要とするリスクであると判断した場合、そのリスクに個別に対応する実証手続を実施します。また、特別な検討を必要とするリスクに対して実証手続のみを実施する場合には、実証手続として詳細テストを含めなければなりません。


B実証手続の実施の時期

監査人は、期末日前を基準日として実証手続を実施する場合には、その実証手続の結果を期末日まで更新して利用するため、残余期間について一定の手続を実施しなければなりません。

監査人は、期中に、重要な虚偽表示リスクを評価するときに予期しなかった虚偽表示を発見した場合には、関連するリスク評価並びに残余期間に対して計画された実証手続を変更する必要があるかどうかを評価します。

5.表示及び開示の妥当性

監査人は、関連する開示を含む財務諸表の全体的な表示が、適用される財務報告の枠組みに準拠しているかどうかを評価する監査手続を実施します。

6.入手した監査証拠の十分性及び適切性の評価

監査人は、実施した監査手続及び入手した監査証拠に基づいて、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関する評価が適切であるかどうかを監査の最終段階において判断しなければなりません。監査人は、財務諸表の重要なアサーションについて十分かつ適切な監査証拠を入手していない場合には、追加の監査証拠を入手する手続を行います。

7.監査調書

監査人は、財務諸表全体レベル及びアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応、及び実施したリスク対応手続の種類、時期及び範囲及び 監査手続の結果を監査調書に記載します。

 
執筆者:吉田隆伸
 


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  明誠ニュースレター vol.27
2013年1月15日発行
発行責任者:武田剛 プロダクトマネジャー:村田博明
制作:株式会社ゼラス 佐々木景子
※このニュースレターに含まれる文章、画像の無断転載はご遠慮ください。