1.はじめに
今回は、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」(以下、IAS第39号という。)の解説の第2回として、金融資産の減損、金融商品の認識の中止について紹介します。
2.金融資産の減損
企業は、報告期間の末日ごとに、金融資産又は金融資産のグループが減損している客観的証拠があるかどうかを検討しなければなりません。客観的な証拠としては、以下のものが含まれます。
【1】発行体又は債務者の重大な財政的困難
【2】利息又は元本の支払不履行又は遅滞などの契約違反
【3】借手の財政的困難に関連した経済的又は法的な理由による、借手への譲歩の供与
【4】発行者が破産又は他の財務的再編成に陥る可能性が高くなったこと
【5】当該金融資産についての活発な市場が財政的困難により消滅したこと
【6】金融資産のグループの見積将来キャッシュ・フローについて、それらの資産の当初認識以降に測定可能な減少があったことを示す観察可能なデータ
上記のような減損の客観的な証拠がある場合には、以下の分類ごとに処理を行います。
【1】償却資産で計上されている金融資産
当該資産の帳簿価額が、見積将来キャッシュ・フローを当該金融資産の当初の実効金利で割り引いた現在価値を下回る 場合には、直接又は引当金方式により現在価値まで減額し、差額を損失として認識しなければなりません。なお、以後の期間に減損損失の額が減少し、その減少が減損損失を認識した後に発生した事象に客観的に関連付けることができる場合には、以前に認識した減損損失の戻入れをしなければなりません。なお、戻入れ後の帳簿価額が、減損損失がなかった場合に想定される償却原価を超過してはならず、戻入額は当期の利益として認識します。
【2】取得原価で計上されている金融資産
公正価値が信頼性をもって測定できないため公正価値で計上されていない資本性金融商品又は当該資本性金融商品に連動し、かつ、それを引き渡すことによって決済しなければならないデリバティブ資産については、当該金融資産の帳簿価額と、見積将来キャッシュ・フローを類似の金融資産の現在の市場利回りで割り引いた現在価値との差額を減損損失として計上します。なお、このような減損損失の戻入れは認められません。
【3】売却可能金融資産
売却可能金融資産が減損していると客観的な証拠がある場合には、その他の包括利益に認識されていた累積損失を、純損失へ組替調整します。なお、資本性金融商品については減損損失の戻入れは認められておらず、負債性金融商品については、当該金融商品の公正価値が増加し、当該増加が減損損失を認識した後に発生した事象と客観的に関連付けることができる場合には、戻入れを行わなければなりません。
3.金融商品の認識の中止
【1】金融資産の認識の中止
企業は、当該金融資産からのキャッシュ・フローに対する契約上の権利が消滅した場合、または、金融資産を譲渡し、その譲渡が中止の認識の要件を満たす場合に、金融資産の認識の中止を行わなければなりません。@金融資産からのキャッシュ・フローを受け取る契約上の権利を譲渡する場合や、A権利を保持したまま、当該キャッシュ・フローを支払う契約上の義務を引き受けている場合に、金融資産又はその一部分を譲渡しているとなりますが、Aについては、次の3つの要件のすべてに該当する必要があります。
(a)原資産からの回収がない限り、支払い義務がない
(b)原資産の売却あるいは担保差入が禁止されていること
(c)原資産から回収したキャッシュ・フローを、重要な遅滞なしに送金する義務を有していること
次に金融資産の中止の要件については、当該金融資産の所有に係るリスクと経済価値をどの程度保持しているかで、以下のように判定します。
(a)所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを移転している場合
当該金融資産の認識の中止を行い、当該譲渡において新たに生じた又は保持している権利及び義務をすべて資産又は負債として別個に認識しなければなりません。
(b)所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを保持している場合
当該金融資産の認識を継続しなければなりません。
(c)上記のいずれでもない場合
この場合には、当該金融資産に対する支配を保持しているか否かで判定を行います。
@支配を保持している場合
当該金融資産に対して継続的関与を有している範囲において、当該金融資産の認識を継続しなければなりません。
A支配を保持していない場合
当該金融資産の認識の中止を行い、当該譲渡において新たに生じた又は保持している権利及び義務をすべて資産又は負債として別個に認識しなければなりません。
なお、金融資産の認識の中止を行った際に認識される損益は、(a)と(b)の差額となります。
(a)認識の中止を行った部分に配分された帳簿価額と
(b)認識の中止を行った部分に対して受け取った対価(新たに認識した資産及び負債の公正価値の差額を含む)とその部分に配分されたその他の包括利益に認識されていた累積損益との合計額
【2】金融負債の認識の中止
企業は、契約中に特定された債務が免責、取り消し、又は失効となった時に、金融負債の認識を中止します。また、現在の借手と貸手との間での、著しく異なる条件による負債性商品の交換は、従前の金融負債の消滅と新しい金融負債の認識を行わなければなりません。同様に、既存する金融負債又はその一部分の条件の大幅な変更は、従前の金融負債の消滅と新しい金融負債の認識として処理しなければなりません。なお、認識を中止した金融負債の帳簿価額と支払った対価の額との差額は、当期の純損益に認識しなければなりません。 |