明誠グループニュースレター

情報フラッシュ [ 連載記事 ]
ActiveDataによる不正監査手続 第2回 多額の売上取引の抽出・分析
IFRS(国際財務報告基準)第28回 IAS第39号「金融商品:認識及び測定(後編)」
国際監査基準のクラリティ版について解説(第19回)「財務諸表監査における総括的な目的」「監査業務の契約条件の合意」について
[ トピック解説 ]
電子手形「でんさいネット」運用開始
「年金基金に対する監査に関する研究報告」(公開草案)の公表について

情報フラッシュ

 
発表日時 表題
平成25年2月28日 日本公認会計士協会は「『不正リスク対応基準』に対応するための監査基準委員会報告書の改正について」(公開草案)を公表しました。
平成25年2月27日 日本公認会計士協会は会計制度委員会報告第13号「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」及び「退職給付会計に関するQ&A」の廃止についてを公表しました。
平成25年2月22日 日本公認会計士協会等は「中小企業の会計に関する指針(平成24年版)」を公表しました。
平成25年2月15日 日本公認会計士協会は「年金基金に対する監査に関する研究報告」(公開草案)」を公表しました。
平成25年2月13日 日本公認会計士協会は「税効果会計に関するQ&A」の改正についてを公表しました。
平成25年2月13日 日本公認会計士協会は経営研究調査会研究報告第49号「統合報告の国際事例研究」を公表しました。
平成25年2月1日 日本公認会計士協会は「年金資産に対する監査手続に関する研究報告」(公開草案)」を公表しました。

トピック解説

 
 

「でんさいネット」の運用開始

1.はじめに

平成25年2月18日、全国銀行協会が100%出資する株式会社全銀電子債権ネットワークによる、電子記録債権システムのサービス(以下、「でんさいネット」)が開始されました。

電子記録債権は、電子記録債権法(平成20年12月施行)に基づき、債権の権利関係が電子化されたもので、「手形」、「振込」、「一括決済」に代わる新たな支払手段として成長するものとして注目されています。

これまで、三菱東京UFJ銀行グループの「電手」を初めとして3つのメガバンクでは、独自に電子債権の記録機関を作り運用してきましたが、電子記録債権の債務者は大手企業が中心で中小企業の利用は限定的でした。

そこで期待されているのが、今般サービスをスタートした「でんさいネット」です。「でんさいネット」は企業理念として、優良企業の高い信用力を中小企業にも還流させ、日本経済の活性化に向かわせる「社会インフラの構築」と「中小企業金融の円滑化」の2つを掲げ、主に全国に転々流通する「手形」の代替を軸としながら、活用が進んでいない売掛金の決済手段である「振込」、「一括決済」の代替もターゲットとしています。

2.「でんさいネット」の特徴

「でんさいネット」の特徴は(1)手形的利用、(2)全銀行参加型、(3)間接アクセス方式の3点です。

(1)手形的利用

「でんさいネット」は、中小企業の資金調達の円滑化に資する最も汎用的な利用方法として、現行の手形と同様の利用方法を採用しています。「でんさい」の発生時、譲渡時等の取扱いについて、できる限り現行の手形取引に近づけるよう設計されており、また、信頼性確保のため、不渡処分制度と類似の制度(支払不能処分制度)を整備するとともに、「でんさい」の譲渡の際には、譲渡人の保証が随伴する仕組みを採用しています(手形の裏書機能)。

(2)全銀行参加型

「でんさいネット」は全銀行参加型のスキームであり、全国銀行協会に加盟する銀行のほか、全銀システムに加盟している信用金庫、信用組合など全国491の金融機関を通じて「でんさいネット」を利用することが可能となっています。このため、既存の銀行ネットワークを活かした確実な資金決済が可能となり、広く「でんさいネット」が利用されることが期待されています。

(3)間接アクセス方式

電子記録の請求方法については、利用者が「でんさいネット」に直接アクセスするのではなく、自らが取引する金融機関を経由して「でんさいネット」にアクセスする「間接アクセス方式」が採用されています。この「間接アクセス方式」の採用により、参加金融機関の創意工夫によって利用者ニーズに合ったアクセスチャネルの構築と金融サービスの提供が期待されています。また、利用料についても、インターネットバンキングなどのアクセス方法や利用内容等に応じて、窓口金融機関が独自に設定できることとしています。このように、「でんさいネット」では、窓口となる金融機関がサービス競争する余地が生まれ、結果として、利用者の利便性向上に資する仕組みを有していると言えます。

3.「でんさい」のメリット

(1)支払企業(債務者)のメリット

「でんさい」を活用することで、手形の発行、振込の準備など、支払いに関する面倒な事務負担が軽減され、手形の搬送コストも削減できます。また、手形と異なり、印紙税は課税されません。さらに、「手形」、「振込」、「一括決済」など、複数の支払手段を一本化することも可能となり、支払管理の効率化が図れます。


(2)納入企業(債権者)のメリット

ペーパーレス化により、紛失や盗難の心配はなくなり、無駄な管理コストを削減することができます。また、支払期日当日に支払企業から入金があり次第、お取引のある金融機関の口座に自動的に入金されますので、面倒な取立手続は不要になります。さらに、保有している債権の内、必要な分だけ分割して譲渡や割引をすることも可能となりますので、決済手段を「振込」から「でんさい」に切替えることにより、これまで資金繰りのために利用できなかった債権を有効活用できるようになります。なお、支払不能処分制度のある「でんさい」は「振込」よりも安全な資金回収手段といえます。

4.「でんさいネット」の利用方法

まず、利用者は取引金融機関に口座開設を依頼します。金融機関は申し出があった登録者の審査を行い、利用契約締結を経て利用者登録を「でんさいネット」に行います。「でんさいネット」はこれを受けて9ケタの利用者番号を付番し、金融機関に通知します。金融機関はこれを管理するとともに利用者に通知します。

利用者は、9ケタの利用者番号を用いて、@金融機関が提供するインターネットバンキング若しくはA取引金融機関の窓口で書面にて依頼を行い金融機関が代行して記録請求を行うという、2種類の方法で「でんさいネット」を利用することができます。

詳しくは、ご利用の金融機関にお問い合わせください。

5.「でんさいネット」の可能性

(1)180兆円規模の売掛金への活用

法人企業統計調査によれば、2010年度の全産業合計のバランスシートにある受取手形は24兆円であり、一方売掛金の残高は約182兆円です。売掛金のほとんどは、有効活用されていないのが実態です。「でんさい」が手形の代替に限らず、広く売掛金の決済手段として活用されるかが、今後の普及のカギを握るものと言えます。

(2)優良債権流通による経済の活性化

大企業や中堅企業が債務者となる債権、あるいは、地方公共団体が債務者となる公共工事債権などが「でんさい」に切り換わるようになれば、信用力の高い優良債権が「でんさい」市場に流通することとなります。手形と異なり、分割が可能な「でんさい」であれば、大きな金額の債権であっても、必要な分だけ有効活用することができるほか、債権者は、当該債権の信用力を持って資金調達をスムーズに行うことができるため、地域経済の活性化に大きく貢献することが期待されています。

6.おわりに

「でんさいネット」は、全国の金融機関が参加していることから、ネットワーク効果によって大半の企業が利用するものと考えられ、将来的には、「手形」、「振込」に代わるスタンダードな決済方法となると予想されます。今まさに動き出した「でんさいネット」の今後の普及と中小企業金融の円滑化への貢献に期待したい。

 
執筆者:松浦政文
 

 

「年金基金に対する監査に関する研究報告」(公開草案)の公表について

1.本研究報告の公表の背景について

平成24年3月にAIJ投資顧問株式会社と投資一任契約を結んだ年金基金に関する年金資産の巨額損失事案が発生しました。その後も他の厚生年金基金において未公開株式の運用で多額の損失が生ずる事案が発生しています。こうした年金資産損失を早期発見するために年金基金における資産管理体制の強化や、年金資産の実在性や評価の正確性、年金債務の網羅性をはじめとする財務諸表の信頼性が担保された財務諸表を、年金基金の理事者が適切に作成し、加入企業などの関係者に情報開示することが必要であると考えられています。年金基金には、代議会、理事会という基金運営のための一定のガバナンスの仕組みはあり、監事による監査制度はあるものの、公認会計士等による外部の監査専門家による会計監査制度は採用されていません。財務諸表の信頼性を確保するためにも、年金基金以外の第三者が独立の立場から年金基金の財務諸表が適切に作成されているかどうかについて監査及び監査以外の保証業務を実施することは理事者の受託責任を全うするために非常に有益な手段となるものと考えられています。

「年金基金に対する監査に関する研究報告」(以下、本研究報告)では、公認会計士等による年金基金に対する監査の諸局面に係る論点に関する留意事項を調査・研究し、その対応策を明らかにしています。

2.本研究報告の概要

[1]年金基金監査全般

監査の種類 任意監査
監査の目的 「準拠性意見」の表明
監査の範囲 法令に定められた監査ではなく、監査対象とする財務諸表に明確な定めはない。本研究報告では、年金経理と業務経理の双方の貸借対照表及び損益計算書を含む財務諸表一式を完全な一組の財務諸表を監査範囲として想定している。
監査報告書の想定利用者 イ)年金基金の構成員(理事者、監事、理事会、代議員会、その他基金従事者)
ロ) 一部の年金基金加入事務所等

[2]リスク評価手続

年金基金における重要な虚偽表示リスクが存在し得る特有の事象 イ)時価又は公正な評価額を容易に把握できない投資商品の評価
ロ) 新しい種類の投資スキームを実行する場合
ハ) 給付の正確な計算と適時な支払
ニ) 掛金の正確な計算と適時な回収及び送金
年金基金におけるアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの具体例 イ) 年金資産が実在しない。
ロ) 年金資産が財務報告の枠組みに従って評価されていない。
ハ) 財務諸表上において年金資産が適切な投資種別で開示されない。
ニ) 給付の請求とその支払が年金基金の規定に沿って行われず、正確・適時・網羅的に記帳されない。
ホ) 掛金収入が正確・適時・網羅的に記帳されない(未収掛金の計上額、回収不能額の評価など)。
ヘ) 年金数理計算を行うに当たっての加入者等のデータが網羅的ではない。
ト) 関連当事者取引が一般の取引と同様の条件で行われない。
チ) 経費が年金基金の規定に沿って正確・適時・網羅的に記帳されない。
年金基金における特別な検討を必要とするリスクの具体例 リ) 活発な市場における公表価格が入手できず、観察不能な入力数値に基づいて評価される金融商品について、時価又は公正な評価額により適切に評価されない。
ヌ) 評価が困難な複雑なスキームの投資商品について、実在性の確認ができない。
ル) 重要な取引が受託会社において処理されており、かつ当該受託会社の内部統制の記述書及び受託会社監査人の保証報告書がない場合、又は受託会社監査人の保証報告書上で除外事項付意見が表明されている場合
ヲ) 特定の加入事業所に対して異なる年金給付算定方式がある場合や算定方式が複雑な場合に、異なる給付額の算定方式を利用することにより給付額が適切に計算されない。
ワ) 母体企業の財政難により掛金の回収可能性が適切に評価されない。
年金基金における不正による重要な虚偽表示リスクが識別される可能性が高いもの イ) 年金資産の実在性
ロ) 容易に把握できる市場価格が存在しない年金資産の評価
ハ) 年金数理計算
ニ) 掛金の回収可能性
ホ) 資金取引


[3] 重要性の基準値

年金基金における留意点 年金基金の経理には年金経理と業務経理の区分に分けられる。これらの資産・負債総額は年金経理が圧倒的に多額となっているが、年金経理・業務経理ともに重要な虚偽表示リスクは存在する。重要性の基準値の決定に当たっては業務経理における重要な虚偽表示リスクを考慮し、業務経理に適用する特定の重要性の基準値を別途決定することを検討する。
重要性の基準値算定の基礎とする指標 ・「純資産」に計上される資産と負債の差額の貸借合計純額
・期中に他の年金基金との合併があった場合に、消滅した年金基金についての最終事業年度の監査をする場合には、最終事業年度の期首の「純資産」に計上された純額
・解散方針を決定し解散手続を実行しているため、継続企業の前提に関する注記が付された年金基金を監査する場合には、期首の「純資産」に計上された純額

[4] リスク対応手続

研究報告では下記の(1)〜(4)についてリスク対応手続の例示を示しています。

(1)運用資産及び運用資産関連損益項目 運用評価手続 管理運用受託会社における内部統制と年金基金における内部統制に分けて検討することが求められる。(受託会社における内部統制については受託会社のタイプ2の報告書*1を入手するなど監基報402に従い実施する。)
実証手続 (内部統制に依拠できる場合)
実証手続として質問及び分析手続を中心に実施する。
(運用資産のうち時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品等で、内部統制に依拠できないような状況下にある場合)
分析的手続や残高確認手続に加えて重要な虚偽表示リスクの程度を考慮して必要な追加的な実証手続を策定し、実施することを考慮する。例えば「年金資産に対する監査手続に関する研究報告」において示された「高監査リスク資産」に対応する、より深度ある監査手続の実施についての考え方を参考とすることが考えられる。
(2)掛金など収入及び給付支払項目 運用評価手続 主に(1)と同様
実証手続 (内部統制に依拠できる場合)
実証手続として質問及び分析手続を中心に実施する。
(受託会社のタイプ2の報告書*1が入手できない等、受託会社の内部統制に依拠できない場合)
分析的実証手続に加えて、必要に応じて計上された掛金等収入や給
付支払の構成要素を分析し、それぞれの構成要素ごとに、例えば、掛金等の認識・計上の妥当性や給付支払の妥当性の検討等の追加的手続を実施することを考慮する
必要がある。
(3)年金債務及び年金債務関連損益項目 運用評価手続 主に(1)と同様
ただし、年金債務の計算は、専門家による算定で内部統制報告書の対象とならないため、内部統制報告書の利用可能性については慎重に検討することが求められる。
実証手続 監査人は年金債務の算定について専門家である年金数理人の算定結果を利用することになるが、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを考慮して、年金基金が利用した年金数理人の結果を利用するか、又は、監査人が自ら専門家を選定し年金債務の算定結果の検討を行うかを慎重に判断することが求められる。
(4)業務経理に係る資産・負債及び関連損益項目 運用評価手続 業務経理関連の内部統制は年金基金で整備・適用していることが考えられるが、特に、相互牽制機能や監視活動が有効に運用されているかを慎重に判断することが求められる。
実証手続 主として経費に関する手続が考えられ、経費計上額の正確性・適時性・網羅性等の監査の実施に当たっては、年金基金作成の予算を利用することが有益である。

*1タイプ2の報告書とは「受託会社のシステムに関する記述書並びに内部統制のデザイン及び運用状況に関する報告書」のことを指す。

 

[5]監査報告書

年金基金の財務諸表に対する監査報告書の特徴 イ) 任意監査を前提とした監査報告書である。
ロ)理事者が財務諸表の作成責任を有することを認識し、特定利用者のニーズを満たす、財務報告の枠組みとして受け入れ可能なものであることを明示する。
ハ)理事者は財務諸表の作成に適用される財務報告の枠組みを財務諸表において適切に記述する。
ニ) 法令等に定められた事項に加えて理事者が合意した追加的な開示を含めた財務報告の枠組みが財務諸表に適用されていることを利用者に注意喚起する。
ホ) 監査人は、当該財務報告の枠組みについて準拠性の枠組みとして受け入れ、監査意見の表明において、「適正表示」の表現を使用せず、準拠性意見を表明する。
ヘ) 当該財務報告の枠組みを十分に理解している者のみにその配布及び利用を制限している旨を記載する。
 
執筆者:石川裕也
 

連載記事

 
 

ActiveDataによる不正監査手続 第2回 多額の売上取引の抽出・分析

シリーズの2回目は、期末日に近い数日間(又は決算月)の取引における多額の売上取引の抽出・分析をしてみたいと思います。

 

期末が近付くと、その期の業績の見込みが徐々に明らかになってきます。粉飾を意図する者がいた場合は、その期の業績を良く見せるために、期末日近くになってから売上データの改ざんに手掛けることが多いと思われます。また、改ざんデータは、業績を左右するほどの金額でないと粉飾の意図が実現できません。そのため、期末日に近い日付でかつ1件当たりの金額が大きい売上取引を抽出すれば、その中に粉飾のために改ざんされた売上データが見つかる可能性があります。もちろん、異常に多額の取引が期末日近くにあったとしても、粉飾とは限りませんので、追加手続きを実施して、その取引の実在性や金額の改ざんの有無を検証しなければなりません。

 

それでは、ActiveDataを使用して、期末日近くの金額の大きな取引の抽出をしてみたいと思います。

@「売上明細」シートを開きます。

Aワークシートコマンドの中から「シートクエリ」を選択し、さらに「数式により抽出」を選択します。

B「数式により抽出」ダイアログボックスが開きますので、条件を次のように設定します。

(ア)「列名」で「計上日」を指定します。

(イ)計算式の中から「>=」を選びます。

(ウ)関数として「Date&Time Function」の「DATE(year, month, day)」を指定します。

(エ)「year, month, day」の部分に「2013,03,01」と入力します。

(オ)計算式の中から「And」を選びます。

(カ)「列名」で「計上日」を指定します。

(キ)計算式の中から「<=」を選びます。

(ク)関数として「Date&Time Function」の「DATE(year, month, day)」を指定します。

(ケ)「year, month, day」の部分に「2013,03,31」と入力します。

C「OK」をクリックすると、「抽出>売上明細」というシートが作成されます。

D「抽出>売上明細」というシートを開いている状態で次のステップに進みます。

Eワークシートコマンドの中から「シートクエリ」を選択し、さらに「指定値により抽出」を選択します。

F「指定値により抽出」ダイアログボックスが開きますので、条件を次のように設定します。

(ア)「条件を入力する列」で「金額」を指定します。

(イ)「条件入力」の「数値>=」をチェックし、抽出したい金額の下限を入力します。

G「OK」をクリックすると、「抽出>抽出>売上明細」シートが作成されます。


(注1) 計上日がテキストデータである場合は、対象列を選択した状態で、ワークシートコマンドの「セル」の中から「選択セルを変換」を選択し、さらに「テキスト形式を日付形式に変換」を選択してください。計上日のテキストデータが分析可能な日付データへ変換されます。

 
執筆者:武田剛
 

 

IFRS(国際財務報告基準)第28回 IAS第39号「金融商品:認識及び測定(後編)」

1.はじめに

今回は、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」(以下、IAS第39号という。)の解説の第3回として、ヘッジ会計について紹介します。

2.ヘッジ会計

ヘッジ会計とは、ヘッジ手段とヘッジ対象の公正価値の変動が純損益に与える相殺的な影響を認識する手法のことをいいます。なお、ヘッジ手段とは、指定されたデリバティブ又は指摘されたその他の金融資産又は金融負債で、その公正価値又はキャッシュ・フローが、指定されたヘッジ対象の公正価値又はキャッシュ・フローの変動を相殺すると見込まれるものをいい、ヘッジ対象とは、資産、負債、確定約定(所定の数量の資源を将来の所定の日に所定の価格で交換する拘束力のある契約)、非常に可能性の高い予定取引、又は在外営業活動体に対する純投資で、(a)企業を公正価値の変動又は将来のキャッシュ・フローの変動のリスクに晒し、かつ、(b)ヘッジされるものとして指定されているものをいいます。

IAS39号では、ヘッジ会計の手法として次の3つを規定しています。

 

【1】公正価値ヘッジ

認識されている資産若しくは負債又は認識されていない確定約定、あるいはそのような資産若しくは負債又は認識されていない確定約定の特定された一部分の、公正価値の変動に対するエクスポージャーのうち、特定のリスクに起因し、かつ、純損益に影響しうるもののヘッジ

【2】キャッシュ・フロー・ヘッジ

キャッシュ・フローの変動可能性に対するエクスポージャーのうち、(a)認識されている資産又は負債に関連する特定のリスク又は可能性の非常に高い予定取引に起因し、かつ、(b)純損益に影響しうるものに対するヘッジ

【3】IAS第21号で定義されている、在外営業活動体に対する純投資のヘッジ

3.ヘッジ会計の適用要件

ヘッジ会計を適用するためには、次の条件のすべてを満たす必要があります。

【1】ヘッジの開始時において、ヘッジ関係とヘッジの実施について企業のリスク管理目的及び戦略の、公式な指定及び文書があること

【2】ヘッジが、その特定のヘッジ関係について当初に文書化されたリスク管理戦略に沿って、ヘッジされたリスクに起因する公正価値又はキャッシュ・フローの変動を相殺するに際し、きわめて有効であると見込まれること

【3】キャッシュ・フロー・ヘッジについて、ヘッジの対象である予定取引は、実行可能性が非常に高く、かつ、最終的に純損益に影響しうるキャッシュ・フローの変動可能性に対するエクスポージャーを表していること

【4】ヘッジの有効性が信頼性をもって測定できること。すなわち、ヘッジ対象の公正価値又はキャッシュ・フローと、ヘッジ手段の公正価値が、信頼性をもって測定できること

【5】ヘッジが継続的に評価され、指定されていた財務報告期間を通じて、実際に極めて有効であったと判断されていること

4.公正価値ヘッジ

公正価値ヘッジについては、ヘッジ手段を公正価値で測定し、再測定することにより生じる利得又は損失は、純損益に認識します。また、ヘッジされたリスクに起因するヘッジ対象に係る利得又は損失は、ヘッジ対象の帳簿価額を修正して、純損益に認識しなければなりません。

5.キャッシュ・フロー・ヘッジ

キャッシュ・フロー・ヘッジについては、ヘッジ手段に係る利得又は損失のうち、有効なヘッジと判定される部分はその他の包括利益に認識しなければならず、非有効部分については、純損益に認識しなければなりません。

予定取引のヘッジが、その後において金融資産又は金融負債の認識を生じさせる場合には、その他の包括利益に認識されていた関連する利得又は損失を、取得された資産又は発生した負債が純損失に影響を与えると同じ期に、資本から純損益に組替調整額を行います。また、その他の包括利益に認識されている損失の全部又は一部分について、回収可能性がないと見込んだ場合には、見込まれた金額を純損益に振り替えなければなりません。

一方、予定取引のヘッジが、その後において非金融資産又は非金融負債の認識を生じさせる場合には、金融資産・金融負債の認識を生じさせた場合の処理の他、その他の包括利益に認識されていた関連する利得又は損失を除去し、それらを資産又は負債の当初の取得原価又は他の帳簿価額に含める方法も認められています。

6.在外営業活動体に対する純投資のヘッジ

在外営業活動体に対する純投資のヘッジについては、キャッシュ・フロー・ヘッジと同様に会計処理しなければなりません。

7.ヘッジ会計の中止

次のような事象が生じた場合には、ヘッジ会計を将来に向かって中止しなければなりません。

【1】ヘッジ手段が失効、売却、終了又は行使された場合

【2】ヘッジ会計の適用要件を満たさなくなった場合

【3】キャッシュ・フロー・ヘッジについて、予定取引の発生する可能性が見込まれなくなった場合

【4】企業がヘッジの指定を取り消した場合

 
執筆者:関和輝
 

 

国際監査基準のクラリティ版について解説(第19回)
「財務諸表監査における総括的な目的」「監査業務の契約条件の合意」について

1.基準の概要

今回は、監査基準委員会報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」と210「監査業務の契約条件の合意」について解説します。いずれも、2013年3月決算に係る監査から適用されている基準です。これらはそれぞれ、国際監査基準(ISA)200と210に対応しています。

2.「財務諸表監査における総括的な目的」

本基準は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した財務諸表監査に関する全般的な指針を提供しています。特に本基準では、独立監査人の総括的な目的を記載するとともに、当該目的を達成するために実施される監査の性質と範囲について説明しています。

 

(1) 財務諸表監査の性質と範囲

(a)財務諸表監査の目的

監査は、想定利用者の財務諸表に対する信頼性を高めるために行われます。これは財務諸表が、すべての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかについて、監査人が意見を表明することにより達成されます。

(b)二重責任の原則

監査の対象である財務諸表は、取締役会による監督及び監査役等による監査のもとで経営者が作成します。財務諸表監査は、経営者又は監査役等のこれらの責任を軽減するものではありません。

(c)合理的な保証

一般に公正妥当と認められる監査の基準は、監査人に、意見表明の基礎として、不正か誤謬かを問わず、財務諸表全体に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得ることを要求しています。合理的な保証は、監査リスクを許容可能な低い水準に抑えるために、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手した場合に得られます。なお、監査には固有の限界があるため、意見表明の基礎となる監査証拠の大部分は絶対的というより心証的なものとなります。

(d)重要性の概念

監査人は、監査の計画と実施、及び識別した虚偽表示が監査に与える影響と未修正の虚偽表示が財務諸表に与える影響の評価において、重要性の概念を適用します。一般的に脱漏を含む虚偽表示は、当該財務諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に重要性があると判断されます。監査意見は財務諸表全体に対するものであるため、監査人が財務諸表全体にとって重要でない虚偽表示についてまで発見する責任を負うものではありません。

 

(2) 監査人への要求事項

監査人は、監査の実施において、以下のことを要求されます。

(a) 監査人は、監査の実施において、財務諸表監査業務に関連する職業倫理に関する規定を遵守しなければなりません。

(b) 監査人は、財務諸表において重要な虚偽表示となる状況が存在する可能性のあることを認識し、職業的懐疑心を保持して監査を計画し実施しなければなりません。
(c) 監査人は財務諸表監査の計画と実施において、職業的専門家としての判断を行使しなければなりません。
(d) 監査人は合理的な保証を得るため、監査リスクを許容可能な低い水準に抑える十分かつ適切な監査証拠を入手しなければなりません。

(e) 監査人は、監査基準等を遵守しなければなりません。監査人は、監査基準等のすべての要求事項を遵守しない限り、監査報告書上で一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した旨を記載することはできません。

3.「監査業務の契約条件の合意」

本基準は、監査契約の新規の締結又は更新についての実務上の指針を提供しています。監査人は、以下を通じて監査実施の基礎が合意されている場合にのみ、監査契約を行います。

(a) 監査の前提条件が満たされているかどうかを明確にすること

(b) 監査業務の契約条件について監査人と経営者が共通の理解を有することを確認すること

 

(1) 監査の前提条件

監査人は、監査の前提条件が満たされているかどうかを明確にするため、以下の事項を実施しなければなりません。

(a) 財務諸表の作成に当たり適用される財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかを判断すること。

(b) 経営者が以下の責任を有することを認識・理解していることについて合意を得ること。

->適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成すること

->不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示のない財務諸表を作成するために経営者が必要と判断する内部統制を整備及び運用すること

->財務諸表の作成に関連する記録や証憑書類等を監査人に提供すること

 

(2) 監査契約を新規に締結又は更新することができない場合

監査人は、監査の前提条件が満たされていない場合には、そのことについて経営者と協議しなければなりません。そして、上記(1)(b)の合意が得られない場合などは、監査契約を新規に締結又は更新することはできません。また、経営者が監査業務の契約条件において監査人の作業の範囲に制約を課しており、その制約により財務諸表に対する意見を表明しないことになると判断した場合も、監査契約を新規に締結又は更新することはできません。

 

(3) 継続監査

継続監査において監査人は、監査業務の契約の変更を必要とする状況が生じているかどうか、及び監査業務の現行の契約条件の再確認を企業に求める必要性があるかどうかを評価しなければなりません。

 

(4) 監査業務の契約条件の変更

監査人は正当な理由がない限り監査業務の契約条件の変更に合意してはなりません。監査人が監査業務の契約条件の変更に合意できず、かつ、経営者が当初の契約条件どおりに監査業務を継続することを許容しない場合には監査契約の解除等をしなければなりません。

 

(5) その他の考慮事項

認知されている会計基準設定主体の設定する財務報告の基準が法令等によって補完されている場合には、契約において法令等の要求事項を考慮する必要があります。例えば、財務報告の基準と法令等による要求事項との間で不整合が生じていないかどうかを検討し、不整合が生じている場合には、経営者と協議するなど一定の措置を取らなければなりません。

 
執筆者:吉田隆伸
 


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  明誠ニュースレター vol.29
2013年3月7日発行
発行責任者:武田剛 プロダクトマネジャー:村田博明
制作:株式会社ゼラス 佐々木景子
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